終わりは始まり


「もうすぐ秋だな」
 ふっ。と憂いを含んだ顔で窓の外を眺めるゼフェルにランディとマルセルが顔を見合わせた。ルヴァが心配そうにゼフェルの額に手を当てた。
「大丈夫ですか?ゼフェル。あー熱は無いようですねー」
「ゼフェル、変なもの食べたのか?」
「疲れてるの?ジュリアス様に叱られたの?」
 心配してるんだかからかってるんだか分からないようなことをランディとマルセルに言われゼフェルは「うるせぇ!」と怒鳴る・・・ことなく「おめーらは悩みが無くていいよな」と静かに言った。
「ゼフェル・・・」
 三人はこれは本当にただ事ではないと本格的に心配になった。ゼフェルはそんな三人に構わずぼーっと窓の外を見ていたが突然ハッとするとバタバタと宮殿の外に出て行った。
「ゼフェル!?どうしたんだ?」
 ランディとマルセルがびっくりして後を追いかける。ルヴァは窓の外を見て納得したように肯いた。
 窓の向こうに黄色いリボンをした少女が見える。女王候補の一人で大人しい性格とは裏腹の芯のしっかりした少女だ。ゼフェルがその少女に心を寄せているというのは周知の事実。そしておそらくアンンジェリークの方も・・・。
 だが女王試験はもうすぐ終わりを迎える。今のペースで行くと夏の終わりと共に試験も終わるだろう。
「願わくば・・・二人が傷付きませんように・・・」
 ルヴァは祈るように呟いた。


☆ ☆ ☆
「アンジェ!」
「ゼフェル様。こんにちは」
 フワリとした笑顔を見せてアンジェリークが挨拶をする。ゼフェルも笑い返す。そこへゼフェルの後を追いかけてきたランディとマルセルが二人の姿を見つけ慌てて回れ右をした。ゼフェルとアンジェリークの仲は本人達の意思とは反対に知れ渡っていた。
「おめー今日は学習に行ってたのか?」
 宮殿へ育成に来れば用が無くともゼフェルの元へ訪れるアンジェリークが今日は来なかったから尋ねてみたのだ。
「今日はアルフォンシアに会いに行ったんです」
「新宇宙に・・・」
 ちくっと胸が痛む。
「で、どうだったんだ?」
「沢山の惑星が出来てました・・・」
 アンジェリークが俯いた。試験開始間も無い頃は惑星ができるたびに嬉しそうな顔をしてたのに、今は泣きそうな顔だ。
「森の湖に行かないか?」
「はい」
 ゼフェルは重い空気を払うように明るく言とアンジェリークはニッコリ笑った。


☆ ☆ ☆
「もうすぐ色づきそうですね」
 アンジェリークが森の湖を見回して言った。青々とした緑ではないけれど紅葉まではいっていない。半分色づいた葉達。
「紅葉見れるかな・・・」
 独り言のように呟くアンジェリークの言葉を耳ざとく聞きつけゼフェルがぶっきらぼうに言った。
「紅葉がそんなに見てぇなら聖地に残ればいいじゃねぇか」
 アンジェリークは驚いたように目をパチパチさせる。
「聖地・・・って、ここですか?」
「何当たり前のこと言ってんだよ」
 アンジェリークは恥かしそうに頬を染める。
「そうですね。・・・私聖地に残っていいでしょうか?」
 ゼフェルの胸が期待で膨らむ。声を上ずらせて答えた。
「当たり前だろ。おめーがここにいてぇならずっといたっていいんだぜ?」
 アンジェリークはふわりと笑顔になると肯いた。
「私、ここにいたいです」


☆ ☆ ☆
「綺麗ですね」
 アンジェリークがうっとりと色づいた森の湖を見つめる。
 あれから間もなくアンジェリークは女王試験を降り聖地に止まることになった。
 今、夏は終わりすっかり秋深くなった。
 森の湖から目を離さないアンジェリークにゼフェルが拗ねた顔をしてボソリと言う。
「本当に紅葉が見たかったんだな」
 アンジェリークが聖地に残りたいと言った時ゼフェルはもしかしたら自分のことが好きなのでは?と思ったのだが。
『オレのことは何とも思ってねぇのかもな・・・』
 遠い目をしてそんなことを考えてしまう。
 視線を感じ我に返ると何時の間にかアンジェリークがじっとゼフェルを見つめていた。
「何だ?」
 尋ねるとアンジェリークが幸せそうに微笑んだ。
「ゼフェル様と一緒に紅葉が見られて幸せです」
「え?」
 一端はしぼんだ期待がまた膨らむ。
「私・・・紅葉が見られないよりもゼフェル様と離れるほうが辛かった。だからゼフェル様に「聖地に残れ」って言われて嬉しかったんです」
「アンジェ・・・」
 期待が確信に変わりゼフェルは手をアンジェリークの頬に触れた。アンジェリークは恥かしそうに頬を染める。
「オレ、おめーが好きだからどこにも行ってほしくなかった」
「私もゼフェル様が好きです」
 ゼフェルは労るようにアンジェリークを抱き寄せた。
「ずっとゼフェル様のお側にいさせてください」
「頼まれたっておめーを離したりしねぇよ。ずっと側にいろ」
 はらりと二人を包むように紅葉が落ちていく。
『終わりって始まりでもあるんだな』
 夏の終わりと共に試験が終わったが秋の始まりと共にゼフェルとアンジェリークの新しい未来が始まる。
 きっとこれから先もずっと同じ道が続いて行くと確信するゼフェルだった。


〜fin〜