俺の欲しいもの


俺はアンジェから、どうしても欲しいものがあった。
でも、アンジェは恥ずかしがって、なかなかくれねーだろうから。
こういう口実になる日はいいよな〜。
バレンタイン。

この前、アンジェが指に怪我をしていたのを見つけた俺は
「何だ?そこ、どうした?」って訊いたんだ。
そうしたら、あいつ「包丁で・・・」って、口を滑らせた。
女王候補の寮は、当然ながら食事は出る。
普段は包丁なんぞ持たなくていいわけだ。
それなのに、包丁で・・・ってことは。
この時期、料理をするなんて。
バレンタイン以外、考えられねーじゃねーか。
「ふーん」
ニヤニヤしている俺に、アンジェは顔を真っ赤にして言ってきた。
「な、なんですか?」
「バレンタイン、だろ?誰にやるんだよ、チョコレート」
アンジェと俺が付き合いだしたのは、数ヶ月前。
アンジェが俺にチョコレートをくれることは知ってる。
でも、それでもアンジェの口から聞きたくて、わざと言った。
「それは・・・ゼフェル様です」
だんだん声が小さくなっていく。
おもしれーな、アンジェって。
「サンキュ」
満足いく答えが返ってきたから、アンジェの手をとって怪我の部分にキスをした。
「おめー、不器用みてーだからな。俺のサクリア、少し分けてやるよ」
目を丸くしたアンジェは、すぐにくすくす笑い出した。
「そうですね、頑張りますから、楽しみにしていてください」
「だな。そうそう、あと、俺、欲しいものあるんだ。
 バレンタインの時に言うから、心の準備しとけよ」
「え・・・?あ、はい、わかりました」

バレンタイン当日。
「はい、ゼフェル様、これ・・・私の手作りです。
 見た目はあまりよくないかもしれませんけど・・・」
アンジェはそう言って、ちょっと遠慮がちに俺にプレゼントを渡した。
「チョコレートです、でも甘くないですよ」
ちゃんと俺の好みを理解してくれたみてーだな。
「ありがとな」
リボンをほどいて、包んである紙をとる。
「あ、そういえば・・・」
その作業中に、アンジェが声をあげた。
「ゼフェル様の欲しいものって何ですか?この間言ってましたよね?何か欲しいものがあるって・・・」
なんだよ、帰り際に言ってやろうと思ったのに。
まぁ、でも・・・それをもらった後に、ゆっくりとアンジェの顔を見るのも悪くねーな。
「あー、そうだな。じゃぁ、今もらっていいか?」
「え・・・いまあげられるものなんですか?」
「そーだよ」
ドキドキしながら、アンジェが待っているのがわかる。
なんて顔してるんだか。
「ぷっ・・・そんな顔すんなよ。難しいものじゃねーからよ。・・・いいか、よく聞け」
そう言って、俺はアンジェの耳元に口を寄せた。
ひそひそ・・・。

「えっ?」
そう言って、アンジェが顔を真っ赤にする。
「いいだろ?バレンタインなんだから」
そういわれて、やっと観念したのか、アンジェがこくんと頷いた。

アンジェが俺の正面に来る。
そして、ちょっと背伸びをして・・・
俺の唇に「俺の欲しいもの」をひとつ、くれた。

・・・。
アンジェが真っ赤にして自分の口を押さえてる。
アンジェからのキスなんて・・・初めてだからな。
「今日一番真っ赤だな、アンジェ」
からかう口調で、そう言ってやった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ・・・」
恥ずかしさで、何も言葉が出てこないらしい。

「なんだよ、キス自体は初めてじゃねーだろ」
そう言って、うつむいているアンジェのあごを無理やり上げて今度は俺からキスをした。
いつも通りの、俺からの・・・。

「いまのがお返しな〜。ホワイトデーのお返し。わかったか?」
「えっ?」
「キスもらったんだから、キスで返したんだよ。わりーか?」
「・・・もう、ゼフェル様ったら・・・」
アンジェの真っ赤な顔が、笑顔に変わる。

だー、幸せだよなぁ・・・。
手作りのチョコレート、俺の欲しかったもの、

そして、この笑顔。

今までで一番最高の、バレンタインだぜ。

END