俺だけのサンタクロース


今日はクリスマス。
アンジェが鋼の館の人と一緒に、クリスマスパーティーをやろうといった。

アンジェリークは今、鋼の館で暮らしている。
女王試験を降り、俺と一緒にいることを選んでくれたんだ。
女王も、ここで暮らすことを快く認めてくれた。
頭の固いジュリアスだけが、最後まで渋っていたけどよ。

本当は、アンジェと二人っきりで過ごしたかったんだけどよー。
「今年は楽しいプレゼントを用意しましたから」
アンジェが珍しく興奮したように、俺に言った。
楽しいプレゼントぉ〜?
なんだかさっぱり想像できない俺に、アンジェはふふっと笑って見せた。

俺の館には、そんなに使用人はいねーんだけど。
一応守護聖の館だからな、それなりにでかいわけで。
どうしても俺とアンジェだけじゃ、この館を管理できない。
だから、執事、料理人、メイド・・・なんかが数人いるわけだ。

大き目のテーブルに、料理が並ぶ。
アンジェが一生懸命手伝ってる・・・。
んっとに、あいつは使用人じゃねーんだから。
おとなしく座ってりゃいいのによ。
そうできないのが・・・アンジェなんだけどな。

「ゼフェル様、準備が整いました」
ソファで本を読んでいた俺に、執事のパーカーが声をかけた。
「準備って言ったって・・・俺は何も指示してねーけどな」
俺は苦笑いをする。
そう、今回の主催者はアンジェ。
パーティーは、アンジェの予定通りに進むんだ。
・・・どうなるんだろーな。

「かんぱーい」
かちん、とグラスを合わせる音。
みな、めいめいに料理をとって食ってる。
まぁ、パーティーって言ったって。
飲み食いするだけだろー・・・・と思ってたんだけど。

「ここで、皆さんにプレゼントがあります」

アンジェが突然言い出した。
なんだ?みんなに用意したってのか?

「じゃぁ、ちょっと待っててくださいね。用意してきますから」
アンジェがニコニコしながら、俺に手招きをする。
「ゼフェル様、さ、いきましょう」
行きましょうって、アンジェ・・・俺は何も聞いてねーぞ?
俺は、半ば強引に部屋の外へ連れ出された。


・・・。
「ちょ、ちょっと待て、アンジェ!本気か???」
「ゼフェル様、可愛いです、大丈夫ですよ」
「これはねーだろ???」
「だって、クリスマスって言ったら、これしかないですよ」
「でも!ま、待て、ドアを開けるな!!!」
パーティー会場のドアの前で、アンジェと口論になる俺。
あたりめーだ。
こんな恥ずかしいかっこで、人前に出れるか!!!

「皆さん、お待たせしました」
アンジェが俺の言い分を聞かずに、ドアを開けた。
最初に笑い声を上げたのは・・・執事のパーカー。
「ぶっ・・・いや、失礼。
 ゼフェル様、とてもお似合いです・・・くくっ」
「わ、わらうな!!!!」
「でも・・・」
その後、他の奴らも一斉に笑い出した。
そりゃぁおかしいよなぁ。
なんてったって。

トナカイの着ぐるみを着てるんだからな!!!

隣では、サンタの格好をしたアンジェが立っている。
アンジェは可愛いけどよ・・・。
俺は・・・おかしいだろ、これは!!!

俺は、アンジェに渡された、白い大きな袋を持っていた。
この中には・・・。

「はい、パーカーさん。いつもお世話になっていますから、感謝の気持ちを込めて」
その白い袋から、アンジェがプレゼントを取り出した。
パーカーに差し出している。
「え?私にですか???・・・ありがとうございます」
みんなが見守る中で、パーカーが包みを開けた。
「これは・・・万年筆、ですね。ありがとうございます、アンジェリーク様」
「いえ、前にパーカーさんが書きやすい万年筆が欲しいっておっしゃってたから・・・」
相変わらず、ニコニコと微笑んでいるアンジェ。

「はい、これはコックさんに・・・いつも美味しいお料理をありがとう」
そう、一人一人に感謝の気持ちを込めて。
アンジェはプレゼントを配っていた。
あぁ・・・こういうところに気がつくのが、アンジェなんだよな・・・。
すげーな・・・。
あいつの、こういうところに、ホント尊敬する。

けどよ・・・トナカイの着ぐるみは、やりすぎじゃねーか?

『場を盛り上げるためですよ。今日は私たちが脇役です。
 皆さんに、楽しんでもらいたいんです・・・
 いつもありがとうって、感謝の気持ちも込めて。
 クリスマスは・・・皆さんに楽しんでもらうよいチャンスだと思うんです』
トナカイの着ぐるみを渡すときに、アンジェはそう言った。
・・・やるしかねーよな・・・そんなこと言われちゃ。

でも、アンジェと他の使用人たちの楽しそうな顔をみて。
ま、いっかと思っちまった。


☆☆☆

一通り終わって、アンジェがお茶を入れてくれた。
疲れたぜ・・・。
皆は、もう帰っていって。
部屋には、俺とアンジェだけになっていた。

俺は、アンジェに細長い箱を渡す。

「アンジェ、これ・・・」

ちょっとぶっきらぼうに差し出してしまった。
照れくさいじゃねーか、やっぱり。

「え?これ・・・プレゼント、ですか?」
「他に何があるんだよ」
「あけていいですか・・・?」
俺が頷くと、アンジェはゆっくりと包みを開けた。
「これ・・・ネックレス・・・もしかして、ダイヤですか?」
「あぁ」
「嬉しいです。ありがとうございます」
アンジェが早速、身に付けてみた。

「アンジェ、ダイヤモンドの3つの意味、知ってるか?」
「え・・・?」
しらねーみてーだな・・・。

「なんだ、じゃぁダイヤをあげた意味もわからねーってことじゃねーか」
ちょっと意地悪をしてみる。
しゅんとなるアンジェ。
「ごめんなさい・・・」小声で言った。

「ダイヤモンドを身につけるってことはなー・・・
 壊れることのない固い気持ち、
 貴方の色に染めてください、
 貴方のために輝き続けます
 ってことなんだよ」

耳元で囁くと、アンジェは真っ赤になった。
そして、頬にキスを贈る。

「サンタはみんなのものかもしれねーけど。
 アンジェは違うからな!」
「はい・・・」

目の前の、サンタの格好をしたアンジェリークは。
・・・俺だけのものだ。


END