思い出の花火


 最近恋人であるアンジェリークの元気が無い。
 そう気づいたのはふとした瞬間に見せる横顔が寂しそうだったから。
「おめーどうしたんだよ?」
 ゼフェルが尋ねても「何でもありませんよ」と笑って首を振るだけ。それも何日も経つとゼフェルも心配になってくる。
『もしかしてオレのこと嫌になっちまったのか?』
 とか、
『家に帰りたくなったのか?』
 など、不安になってきた。そしてとうとうゼフェルは耐え切れず切れた。
「おめーなぁ、そんなだと心配するだろうが!」
「え?」
 突然怒鳴られアンジェリークはびっくり眼でゼフェルを見つめる。アンジェリークに見つめられたゼフェルは赤くなると今度はどもってしまった。
「だ、だから、おめーの元気がねぇって最近皆が心配してるんだよ」
 本当はゼフェルが一番心配しているのだがそんなことはテレ臭くて言えない。
 アンジェリークにゼフェルの言葉は効果てき面だったようではっとした顔をするとポツリポツリと話し出した。
「毎年この時期になると友達と花火をしたんです。お互い花火を持ち寄って色んな花火をしたんです」
 それで友人が恋しくなったのかと思ったがどうやら違うらしい。アンジェリークの話は続きがあった。
「聖地って季節感ないから花火も出来ないんだなぁって思ったら何だか寂しくて」
「子どもっぽいですね」と赤くなって笑う様は可愛らしく何とかしてやりたいという気になってしまった。
「別にいいじゃねぇか」
「何がですか?」
「季節感なくったって。やろうぜ、花火」
「いいんですか?」
 と聞くアンジェリークの瞳が期待で輝く。ゼフェルは鼻の下をこすって胸を叩いた。
「へっ。花火くれぇオレが作ってやるぜ!」
「うわぁ。ありがとうございます!」
 頬染めるアンジェリークにゼフェルも嬉しそうに笑った。


☆ ☆ ☆
「すごーい・・・。綺麗」
 嬉しそうに手に持った花火が鮮やかに咲く様を見てアンジェリークが歓声を上げる。
「すごいです!ゼフェル様花火を作っちゃうなんて」
「へへっオレを誰だと思ってんだ?鋼の守護聖様だぜ?これっくらいどってことねぇよ」
「そうですね」
 アンジェリークに嬉しそうに微笑まれゼフェルも悪い気はしない。ちょっとテレ臭くて頬をポリポリと掻いて自慢げに言う。
 と、そこへ不満そうな声が上がった。
「ワタシや他の皆様もいらっしゃるんですよ、二人の世界を作るのは後にしてください」
 レイチェルだった。他にランディ・マルセル・メル・ティムカもいる。皆遠慮してるのかゼフェルとアンジェリークの方を見ないようにしてるらしい。
「べ、別に二人の世界なんか作ってねぇよ!」
「そんなつもりないわ」
 ゼフェルとアンジェリークは仲良く首を振って見せるがレイチェルはあきれ果てたように腰に手を当てた。
「えー、自覚無いなんて質悪いなぁ」
 「ま、いっか」と言いながらレイチェルは皆のとこへ行って花火を手に取った。
「レイチェルったら・・・」
 アンジェリークが真っ赤になっている。
「ったくあいつは」
 ゼフェルも赤くなってがりがりと頭をかいた。
「おーい、吹き上げ花火に火をつけるぞー」
 ランディの声に皆が注目する。地面に置いて火をつけるタイプの花火は火を付けてしばらくすると勢い良く炎の花びらを吹き上げた。赤・青・黄・緑・と次々に変わる花に皆が見惚れる。
 皆が花火に見惚れている間にアンジェリークがゼフェルのシャツをちょん、と引っ張った。
「何だ?」
「ゼフェル様、ありがとうございました。私すごく嬉しいです」
「別に対したことじゃねぇよ」
 素っ気無く言ったがアンジェリークは幸せそうに微笑むと次にはにかんだように俯いて言った。
「それで、お礼に・・・」
 最後の声が聞こえず少し屈むと頬に柔らかな感触を感じた。
「大好き・・・」
 消え入りそうな声で言うとアンジェリークは耳まで真っ赤になって口を両手で覆い俯いた。
 真っ赤になったアンジェリークが可愛くて愛しくてゼフェルは皆がいるのも忘れてアンジェリークを抱きしめた。
「ったくおめーは内気なくせに大胆だよな。来年も作ってやっからな」
「嬉しいです」
 来年はどんな花火にしようか早くも考えるゼフェルだった。


〜fin〜