My Lover...7.

・・・?
・・・・・・・・?
何も、起こらない。何だか、辺りが妙に静か。
恐る恐る、瞳を片方ずつ開けてみる。

その瞳の先に映ったのは・・・

ゼフェル先輩!!!??

今にも私を打ちそうなその手を、ゼフェル先輩が片手で抑えている。
どうして・・・?確かにさっき、帰ったはずなのに・・・。
「誰が、誰といちゃついてるって?」
「ぜ・・・ゼフェル!!」
その場にいる誰もが唖然としてゼフェル先輩を見ている。
何が一体どうなっているのか、といった様子。
「てめー、いつまで汚ねー手で触ってんだよ・・・!!」
その台詞のすぐ後に、私の両腕は解放された。
今まであんなに強気だった彼らは少しずつ、後ろに下がり始める。
1人が素早く振り返って走り去ると、全員が蜘蛛の子を散らすように去っていってしまった。

私は途端に、気が緩んでその場に座り込んでしまった。
今まで何が起こっていたのか、とても把握できない。
どうしてこんなことになったの・・・?
私、悪いことをしたの・・・?
考えれば考えるほど涙が後から後から溢れ出して、止まらない。

そんな私を、以外にも大きな腕が、ふわりと優しく、暖かく包み込んでくれた。

「今日は・・・何だか背後から気配を感じて・・・」
私への締め付けがより一層強くなる。
まるで、すべてから守られているような錯覚に陥る。
「それで、分かれた後も・・・気になって・・・」
—私のことを心配してくれたの・・・?
「来てみたら、こんなことに・・・っ!」
—だから、今日の帰り道は静かだったの・・・?
「わりぃ・・もっと早くに気が付いていれば・・・・!」
「ゼ・・フェル・・・先輩・・・」
声が、震える。
涙が、溢れる。
恐怖心のせいじゃない。
ゼフェル先輩が、こんなにも私のことを気遣ってくれるから・・・。

「おめーが・・・・好きだぜ、アンジェリーク・・・」

!!!
肩の上で、ゼフェル先輩が呟いた言葉。
こんなに近くに耳があるのに、その言葉の理解に時間がかかった。
今、ゼフェル先輩、私のこと・・・『好き』って・・・
一瞬、泣くのを忘れて私はゼフェル先輩の顔を見上げた。
先輩・・・顔が真っ赤・・・・・
けれど、その瞳に嘘が無いことは、わかる。
放課後の、あの真剣な先輩の瞳。
本当に、私のことを・・・?
信じられない。
夢みたい。

ねぇ、ゼフェル先輩。
私、これからも貴方の側に居ていいの?
ずっと・・・ずっと、居ていいの?
いいの・・・・ね・・・?


 ☆ゼフェル☆

明らかにおかしいな、と感じたのはあいつと分かれた後だった。
今までずっとついてきた気配が、分かれた直後、すべて消えたんだ。

・・・少し、考えた。
やばい、と思ったときには既にあいつの方に走っていた。
自分でも信じらんねー・・・。
あいつを抱きしめたことも
あいつに想いを伝えたことも・・・

信じらんねーけどよ、後悔なんてしてねーぜ!
俺は、純粋にあいつのことが・・・。
廊下でぶつかったときから、
あいつの中の何かに惹かれたんだ。

正直、俺の中の何かは限界だったんだ。
あいつを見て、変な感情が頭ン中回ってイライラすんのも、
あいつが他のヤツと話しているときに起こるむしゃくしゃした感情も。

俺がこの先、あいつのことを守れると思うと胸のつっかえが取れた感じだ。
・・・よくわかんねーけどよ。
ランディ野郎やマルセルがよく口にしている

『恋』

これが、そうだっていうのか・・・・・?

___

「・・・それで・・・おめーはどうなんだよ・・・?」
アンジェリークの心はとうの前に決まっている。
彼女を抱いたままで、ゼフェルは急かすように言った。
「私も・・・ゼフェル先輩のことがずっと好きでした。」
可笑しなものだな、と思う。
こんなときは、いつもおっとりとしたアンジェリークの方がしっかりしている。
ゼフェルは動揺を少しでも隠そうと、彼女を尚も抱きしめた。
「これからは、おめーを危ねー目に遭わせたりしねぇから・・・」
「・・・私、先輩とずっと一緒にいても、いいの・・・?」
「・・あたりめーだ・・・ずっと、傍にいて、離れンなよ。」
お互いが、お互いの顔を見ずに交わされてゆく。
触れ合っている所全てから、まるで、心の奥も伝わるかのようだ。

それは、たった数分の出来事。
しかし、恋人たちには永遠の時間。
それでも名残惜しいかのように、彼らはやっと、瞳と瞳を合わせた。
ゼフェルがすっと立ち上がるとあの時と・・・2人が出会った時と同じようにアンジェリークに手を
差し伸べた。
勿論彼女はその手を受け入れる。
いつもは工具を握っているその手を、私のために・・・。
アンジェリークも立ち上がると、その足元が、まだ少しふらつく。
しかし、支える人が・・・支えてくれる人が・・・こんなにも、傍に・・・・。
何も言わず、近くに転がっていたアンジェリークの鞄を拾う。
言葉にしなくても、瞳を合わせて微笑むだけで、それが「ありがとう」のサイン。

『そろそろ帰らねーと・・・親が心配するぜ』

『・・・もう少しだけ・・・傍にいたい・・・』

『だぁっ!しゃあねーな!』

ゼフェルはアンジェリークを引き寄せると、先程よりも強く、抱きしめた。
それを、面倒だなんて、誰が思うだろうか?
トクン・・・
聞こえるよ、先輩の鼓動。
トクン・・・
聞こえるぜ、おめ—の心臓の音。
今、傍にいる。
近くに居ないと、感じることが出来ない?
そうじゃないよね。
これからは、そうじゃないよね・・・。


2人の間に、少し遅い春の風が過ぎていった。

つづく

 (工事中)