マシュマロ
〜アンジェリークサイド〜


マシュマロの夢を見た。

ふわふわ甘いの。

やわらかくって、白くって・・・。

指でつつくと、ちょっと素朴であったかい。

なんだか、しあわせな感じがしたな。

 

☆☆☆

3月14日はホワイトデー。

わたしはゼフェル様から、綺麗につつんだマシュマロを貰ってしまった。

ホワイトデーのマシュマロは、「お友だち」の意味。

わたしはショックを隠しきれないでゼフェル様とケンカ別れのようになっちゃった。

(なんで涙が出ちゃんだろう)

ゼフェル様が飛び出して行った後。

どんなに冷静でいようとしても、思うようにできない。

(わたしのこと、どう思おうと、それはゼフェル様の自由なのに)

 

部屋のドアをノックする音が響く。

「はい」

誰だろ。返事をしながら急いで涙を拭いた。

おそるおそるドアを開ける。

肩がちょっと震えた。

「ゼフェル様っ・・」

「ちょっと・・・入れてくれねーか?」

泣いた顔を見られたくないなと思って、抵抗をしようとしたけど、やっぱり無理だった。

ちょっと強引に入ってきたゼフェル様は、どかっと音をたてて椅子に座わった。

(怒ってる。ちょっと怖い・・・)

「あのよ・・・これ、開けてみろ」

そう言って、さっきのマシュマロと同じラッピングペーパーの袋をテーブルに置いた。

「これは・・・?」

「いいから、開けてみろ」

おずおずとそれに手を伸ばし、数十分前と同じように開ける。

さっきと違うのは・・・その中身。

「これ、クッキーですか?」

「あぁ・・・まさかマシュマロに意味があるなんてな、思わなかったぜ。んっとに商人のヤ

ロー、商人なんだからそれくらい知ってろよな」

そっぽを向いて、そこまで一気に言った。

「ゼフェル様・・・マシュマロの意味を、ご存じなかった?」

「その、悪かったな、あんなこと言って」

何て言ったらいいか・・・。

わたしったら思いっきり涙目だし。

もう。

「いいえ、あの、私もそう思ってなかったので・・・ゼフェル様、このクッキー、食べていいで

すか?」

恥かしいのを隠すため、クッキーに手を伸ばす。

大きめのクッキーの端を小さくかじりついた途端。

すばやく身を乗り出したゼフェル様が、クッキーの反対側からかじりついた。

「毎年、チョコレート俺によこせよ!今度からは間違いなくクッキー、返すからな!」

わたしは顔を真っ赤にしてうなづいた。

 

来年もその次の年も毎年毎年ね、ゼフェル様にチョコレート。

(これからさきずうっと)

(いつまでも)

・・・わたしたちにはどんな未来があるのかしら。

わたしはほんとにまだ子どもで。

恋ってむずかしい。

ちょっとしたことに、すぐ動揺しちゃうし涙がでちゃうし。

(ゼフェル様はわたしのこと、本当はどう思ってる?)

(このまま変わらないでね。・・・もうちょっとだけ夢見心地でいたい)

(ふわふわ甘いお菓子みたいな)

「泣かして悪かったな」

重ねられた唇が甘かった。

わたしたちは、お互いとんでもなく照れてそっぽを向く。

 

・・・どんな未来が来ようと、忘れたくない。

(あまくって幸せな)

────マシュマロみたいな恋。

 

END