マシュマロ
〜ゼフェルサイド〜


俺は今だかつて「バレンタインのお返し」というものをしたことがない。

でも・・・「本命チョコ」をもらったからには、何かやらねーとな。

・・・・・・・・。

困った・・・・。

「バレンタインデー」はチョコをやるって決まってるんだろ?

・・・「ホワイトデー」って、何やりゃぁいいんだ?

 

☆☆☆

「よー」

俺は庭園にいる商人のところに訪ねに行った。

「いらっしゃい、ゼフェル様。今日はどんなご用で?」

俺は周りに誰もいないことを確認してから、そっと商人に訊いた。

「なぁ・・・その、ホワイトデーって、普通、何をやるもんなんだ?」

「へっ?」

「バレンタインはチョコレートだろ?ホワイトデーは何をやるのかって訊いてんだよ!」

恥だとは思いながら、思い切って言った。

そうしたら・・・商人のやつ、急に俺の背中をバシバシと叩きやがった。

「ゼフェル様、お返しですか〜。このこの!」

「な、なんだよ!いいから早く教えろよ!買ってやんねーぞ!」

そう言ったら、商人のやつ、慌ててもみ手をはじめた。

「おっ客さーん、そりゃないよ〜。いい品物、ぎょーさん仕入れてますから〜。あ、これこ

れ、これなんかいいと思いますよ〜、ゼフェル様」

そう言って出してきたのはマシュマロ。

そうか、チョコレートをもらったんだからな、お菓子で返せばいいのか。

「分かった、それ、もらうぜ」

「まいどー!綺麗にラッピングしておきまっせ〜〜〜」

鼻歌を歌いながら、商人はリボンを用意し始めた。

 

☆☆☆

3月14日。

アンジェの部屋に遊びに行った俺は、早速プレゼントを渡した。

「え・・・?ゼフェル様、これ・・・?」

「あぁ、今日はホワイトデーだろ。バレンタインにチョコレートもらったお礼だ」

顔が熱くなっていくのを感じながら、ぶっきらぼうに渡した。

「嬉しいです、ゼフェル様・・・。開けていいですか?」

「あぁ、いいぜ」

アンジェはラッピングペーパーを破らないように、そうっと開けた。

そして、眼を見開いて中身を見つめた。

「これ、マシュマロですか?」

声のトーンがいつもと違う。

アンジェの顔が、ちょっとこわばった気がした・・・・けど、気のせいか?

「なんだよ、見たまんまだろ?違うものに見えるって言うのかよ?」

アンジェがなんでそんなことを言ったのか、よくわからなかった。

「いいえ、ありがとうございます」

そう言ったアンジェの顔は、いつもの笑顔に戻っていた。

俺の勘違いか?アンジェの様子がおかしいと思ったのは。

 

そのあとは、いつものようにたわいもない話をした。

アンジェの様子はいつもと変わらない。

(やっぱりさっきのは、勘違いだったのか・・・)

そう思いながら、そろそろ帰ろうと席を立とうとした・・・・

そのとき。

アンジェが俺の服の裾を掴んだ。

「?どうした・・・?」

さっきまで笑顔だったのに、急に神妙な顔をしてやがる。

やっぱりなんかあるんだな。

なんだっつーんだ、一体!

「なんだよ?何が言いてーんだ?・・・さっきマシュマロ見て、そんな顔したよな。そんなに気

にいらねーのかよ。わかったよ、持って帰る!!!」

急にそんなことが頭をよぎり、思わずどなってしまった。

俺からのプレゼントはいらねーっつーのかよ。

テーブルの上においてあった、袋に入ったマシュマロを乱暴に掴み、アンジェの手を払って

ドアのほうに向かった。

 

☆☆☆

怒りがおさまらねー。

なにが気にくわねーんだよ。

ずんずん歩いていると、レイチェルにばったり会った。

「こんにちは!ゼフェル様。あ、なんかご機嫌斜めですね〜。アンジェと過ごしてたんじゃな

いんですか?」

なんでこいつは俺の怒りを増長させることしかいわねーんだ。

「うるせーな!かんけーねーだろ!」

そう言って、また歩き出そうとしたとき、レイチェルは俺の手にしているものに気付いたよう

だった。

「あ、それ・・・なんですか?」

「マシュマロだよ!アンジェにやったら、なんか文句言いたそうな顔しやがったからな。持っ

て帰ってきたんだよ、くそっ」

そう言ったら、レイチェルもしかめっ面しやがった。

「それ、商人さんのところで買ったんですか?」

「そうだよ、あいつが見繕ってくれたんだ・・・って、これ、食ったことあるのか?もしかして不

味いのか・・・?」

不味いなら、アンジェがあんな顔したのも分かる。

そう思って訊いてみたが、帰ってきたのは俺の想像もつかない答えだった。

「違いますよ、ゼフェル様〜。あぁ、商人さんも悪いんだけど。マシュマロっていうのは、ホ

ワイトデーのお返しに贈ると『お友達でいましょ』って意味になるんです。常識ですよ、常

識!本命の女の子にはクッキーなんかあげるんですよ!!」

何・・・・・?

そんな話、初めて知ったぞ・・・・。

だからアンジェ・・・あんな顔したのか・・・?

すべてのナゾが解けた瞬間、俺は庭園に向かって走っていた。

 

☆☆☆

庭園に回ってから、アンジェの部屋にたどりつく。

息を整えてから、部屋のドアをノックした。

「はい・・・」

そう言いながら、ちょっとだけドアが開いた。

目を赤くしたアンジェがそっと顔を出す。

俺を見た瞬間に、アンジェの肩がちょっと震えた。

(泣いてたのかよ)

俺が無知なせいで泣かしてしまったと思うと、胸が痛い。

「ちょっと・・・入れてくれねーか?」

そう言いつつ、強引に部屋の中に入る。

アンジェは泣いた顔を見られたくないのか、抵抗をしようとしたが無駄な試みに終わった。

どかっと音をたてて、椅子に座った。

アンジェもそれに続いて、俺とは対称的に椅子に座った。

「あのよ・・・これ、開けてみろ」

そう言って、さっきのマシュマロと同じラッピングペーパーの袋をテーブルに置いた。

「これは・・・?」

わけのわからない、といった顔して俺の方を見る。

「いいから、開けてみろ」

おずおずとそれに手を伸ばし、数十分前と同じように綺麗に開けはじめた。

さっきと違うのは・・・その中身。

「これ、クッキーですか?」

信じられないものを見た、と顔に書いてある。

「あぁ・・・まさかマシュマロに意味があるなんてな、思わなかったぜ。んっとに商人のヤ

ロー、商人なんだからそれくらい知ってろよな」

そっぽを向いて、そこまで一気に言った。

「ゼフェル様・・・マシュマロの意味をご存じなかったんですね・・・」

「その、悪かったな、あんなこと言って」

「いいえ、私もそう思ってなかったので・・・あ、ゼフェル様、このクッキー、食べていいです

か?」

恥かしいのを隠すためか、アンジェはそう言ってクッキーに手を伸ばした。

そして、アンジェが大きめのクッキーの端を小さくかじった・・・・・

その反対側に俺はすかさずかじりついた。

「毎年、チョコレート俺によこせよ!今度からは間違いなくクッキー、返すからな!」

真っ赤な顔のアンジェに、そう言い切った。

そして。

「泣かして悪かったな」

1秒ほどの、短いキスをアンジェに贈った。

 

クッキーは甘めだったけど・・・美味かったな。

・・・キスも、とびっきり甘かったぜ・・・。

 

END