聖母


〜アンジェリーク〜

 私はいつも守られてばかりいた。普通の女の子だった時は友達や家族に

守られ、女王候補になってからは守護聖様や教官の方々、レイチェルに助

けられた。

 そんな私が初めて、守りたいと思った人・・・ゼフェル様。

「オレ、エンジニアになりたかったんだぜ」

 と、ゼフェル様は将来なりたい夢を過去形でおっしゃった。

「ま、守護聖なんかになっちまって叶えることはできなくなっちまったけどな」

 笑いながら言ったのに諦めきったその笑顔は私の胸を痛くした。きっと私

には計ることができないくらい傷ついているのだと感じた。

 昔の話をする時は嬉しそうに笑う。きっとそれが本来のゼフェル様。話終

えた時は苛立った顔になる。きっとそれは守護聖になってからできた表情。

 メカいじりをしている時や日の曜日に遊んでいる時は普通の少年の顔。で

も執務室にいる時は怒った顔。

 ゼフェル様をこれ以上傷付かない様に守ってあげたいと思った。おこがま

しいかもしれないけれどゼフェル様の安らげる場所になりたいと思った。

 でも、何をしたらいいのか分からなかったから私が小さな頃、泣きたくなっ

た時お母さんにやってもらったみたいにゼフェル様の頭を自分の膝に乗せ

た。

「お母さんだと思って甘えてください」

 突然の私の行動と言葉にゼフェル様はひどくびっくりしたような顔をした。

すぐに笑い出して「ばーか」と言った。

「男が素直に甘えられるわけねぇだろ」

 そう言ったけれど、その後テレくさそうに「ありがとな」と言ってくれて私はす

ごく幸せな気持ちになった。

 ゼフェル様はすぐに寝息を立てはじめた。私の膝を枕に眠っているゼフェ

ル様が愛しくて頭をそっとなでた。

 少しでもゼフェル様の心が癒されるように。ずっとずっと側にいたいと思っ

た。



〜ゼフェル〜

 他人のために自分の夢を捨てさせられた。悔しくて悔しくて周りのもの全

てが敵に見えた。

「オレ、エンジニアになりたかったんだぜ」

 ある日、誰にも言ったことない将来の夢を口にしてしまった。

 栗色の髪の女王候補にはなぜか素直になれた。アンジェリークの笑顔は

オレのささくれた心を癒してくれるかのように心に沁みた。

「ま、守護聖なんかになっちまって叶えることはできなくなっちまったけどな」

 そう言ったとたんアンジェリークは泣きそうになった。そして何を思ったの

か突然オレの頭を抱えて自分の膝に乗せた。

「お母さんだと思って甘えてください」

 何で突然「お母さん」なんだ? 突然のことにさすがのオレも驚いた顔を隠

せなかった。アンジェリークを見ると真っ赤な顔をしている。恥かしいくせに

大胆なことしやがる。

 オレの頭を抱えている腕は暖かくてアンジェリークの優しい気持ちが流れ

てきた。

『癒されるってこういう感じかもな・・・』

 オレは守護聖になって初めて、安らいだ気持ちになり、何時の間にか眠っ

ていた。

 他人のための守護聖になったのなら悔しいけれど、おめーに会うためだっ

たなら嬉しいのかもしれない。



〜fin〜