マフラー
好きな人が出来たらクリスマスを二人で過ごして手編みのマフラーをプレゼントしたい。
アンジェリークはそんなささやかな夢があった。そんなアンジェリークが恋をした。相手は神様と同じくらい尊い存在だった守護聖の一人。でも実際に会ったら普通の少年だった、鋼の守護聖ゼフェル。
「もうすぐクリスマスですね」
日の曜日のデート中。アンジェリークは話し出した。ゼフェルは「そうだったな」と気の無さそうな返事を返す。
「聖地って暖かいからそういう季節感ねぇんだよな」
そう。聖地というところは常春でいつもポカポカ陽気だった。最高に過ごしやすい気候だからその分マフラーなんてものは必要ない。好きな人も出来てしかも両想いになってもアンジェリークの夢は叶いそうにない。でも時々下界に抜け出すゼフェルなら・・・と淡い期待を抱きながらおそるおそる尋ねてみた。
「ゼフェル様、マフラーを使う時ってありますか?」
「ねぇよ」
「そうですか・・・」
即答されてしまった。ガックリ肩を落すとゼフェルが不思議そうな顔をする。
「何だ?マフラーがどうかしたのか?」
「え、えと。私、家からマフラー持ってきちゃったものですから」
苦しいイイワケだったが、ゼフェルは大して疑問に思ったわけなじゃないらしい。「ふぅん」と言ったっきりだった。
☆ ☆ ☆
部屋に戻ったアンジェリークは棚の引き出しを開けた。紙袋に入っている編み上がったばかりのマフラーを出して途方に暮れてしまう。
「どうしよかな・・・。これ」
クリスマスプレゼントにと編んだがはっきりと「使わない」と言い切られてはプレゼントできない。
マフラーを広げてボーっとしているとコンコンと部屋のドアがノックされた。
「アンジェー、いるか?おめー今日元気なかったけど何かあったのか?」
「きゃっ」
さっき会ったばかりのゼフェルの声にアンジェリークは驚いて悲鳴を上げた。ゼフェルがドアを開けたから慌ててマフラーを紙袋に入れる。
「何、驚いてんだよ?・・・ん?おめー今何か隠したな?」
「い、いいえ」
プルプルと首を振る。しかし正直なアンジェリークは顔に出てしまう。ゼフェルは隠し事をされたせいかムッとした顔をすると黙ってアンジェリークに近づいてきた。
アンジェリークの背後にある紙袋を取り上げた。
「や、ダメです〜」
ゼフェルから取り上げようと手を伸ばした。ゼフェルはそれを避けようとする。二人がもみ合っていると紙袋は床に落ちマフラーが飛び出てしまった。
「マフラーじゃねぇか。これか?おめーが家から持ってきたっつーのは?」
ゼフェルはマフラーを手に取り見ている。アンジェリークのにしては男っぽい色に首を傾げている。
アンジェリークは思いきって本当のことを言うことにした。
「それは、ゼフェル様のなんです」
「オレの?」
目を丸くするゼフェルにコクンと肯く。
「クリスマスプレゼントに・・・と編んだんですけど。でも聖地は暖かいから必要ないと思って・・・」
ポカンとしていたゼフェルがテレくさそうに笑ってアンジェリークの頭をポンッと叩いた。
「何だよ、そうか。だったら早く言えよな。さっきみてぇに遠回しに聞かれたって分かんねぇだろ」
「ごめんなさい」
「謝ることねぇよ。・・・クリスマスは下界に遊びに行こうぜ。下界にはでっけぇクリスマスツリーが飾ってあんだ。おめーに見せたいって思ってたんだよ」
ゼフェルの優しい言葉にアンジェリークは思わず抱き付いた。
「わっ。急に抱き付くんじゃねぇよ!」
「ゼフェル様、嬉しいです」
泣きながら微笑んでいるアンジェリークの頭を撫でてゼフェルは少し呆れたように言う。
「ったく、今度からは言いたいことがあったらちゃんと言えよ?もう言いたいことねぇな?」
「あります」
「何だよ?」
「ずっと側にいてくださいね」
ゼフェルは一瞬虚を衝かれたような顔をしていたがすぐに満面な笑顔になるとぎゅっと抱き寄せた。
「それはこっちのセリフだ!おめーこそずっとオレの側にいろよ!」
「ずっと一緒にいましょうね」
一足先にクリスマスプレゼントを貰ったゼフェルはイブの日にアンジェリークのプレゼントにプラチナのリングを作った。
〜fin〜