休日
〜メイドアンジェシリーズ〜


 クリスマスはキリストの誕生日。

 その日は特別な日。

 聖地でもクリスマスを祝うために、執事やメイド達が忙しそうに準備をする。

 謁見の間には大きなツリーが飾られ、いつもとは違う雰囲気を醸し出していた。

 そんなワクワクするような雰囲気に、自然と皆の心も弾む。

 だが。ゼフェルはそうではないらしい。

 

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「ただいま帰ってまいりました。」

 メイドのアンジェリークが可愛らしい声で帰って来る。

「ったく、今何時だと思ってるんだよ。」

 ゼフェルはぶすっとした表情でアンジェリークを出迎えた。

 アンジェリークは申し訳なさそうに下を向いて必死に謝る。

「すみませんっ。クリスマスパーティ会場の準備が急がしくって、、、。」

「ああ、明日だっけか?」

 アンジェリークの言い訳にゼフェルは素っ気なさそうに答える。

「はい。『守護聖様が御出席されるパーティだから、心して準備するように』って執事さんに

何度も言われました。、、、もちろん御主人様も御出席するんですよね、、?」

「ああ。出ないと誰かさんがうるせーからな」

 楽しそうに話すアンジェリークとは反対に、ゼフェルは不機嫌そうに言った。

「御主人様っ、明日のパーティは凄いんですよ。見たこともないクリスマスツリーが、、、」

 アンジェリークは瞳を輝かせて、ゼフェルに話すが彼は不機嫌のまま。

 しばらく話を聞くと、いつもよりお喋りな彼女の唇を塞いでしまった。

(ったく、、、。何がそんなに面白れーんだよっ)

 アンジェリークに口付けながらゼフェルは思う。

(クリスマスのせいで、おめーと一緒にいる時間が減ってるんだぞっ。)

 心にしまっているその気持ちを伝えるかのように、ゼフェルはアンジェリークの耳朶にあ

る紅い印に触れる。

 ゼフェルはその証を愛おしそうに見つめ、もう一度アンジェリークに口付けた。

 

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 クリスマスパーティ当日。

 ゼフェルは正装をして、パーティ会場へと向かった。

 時間は午後5時。

 開催時間は午後6時なのだが、パーティ会場で準備をしているアンジェリークに会いたく

てゼフェルは早く出た。

「アンジェはどこなんだよ、、。」

 ゼフェルはパーティ会場につくと、当然の事のようにアンジェリークを探し出す。

 ゼフェルの姿に気付いて、何人かの執事が『ただ今準備中です。守護聖様はもう暫くお

待ち下さい』と声をかけてくるのだが。ゼフェルはそれを無視してズンズンと会場の奥へと

入って行く。

 辺を見回せば、大きなツリーやリース、それに美味しそうな食事が並んである。

 いかにも盛大そうなパーティの雰囲気だ。

 だが、ゼフェルには飾り付けや食事が豪華で美しい分だけ、自分とアンジェリークが一緒

にいる時間が奪われているような気がして、無性に腹が立ってきた。

 何だか辺り構わず当り散らしたい気分になっていると、陽気な青年が声をかけてきた。

「あっ!ゼフェル様や〜んッ!お久し振りです〜♪」

 嬉しそうに話している青年は、オリヴィエの執事。チャーリィである。

「ああ。」

 ゼフェルが苛立たしそうに言うと、チャーリィはにっこりと微笑む。

「その顔は、『アンジェを探してるのに見つからへ〜ん』って顔やな!?だったら俺がアン

ジェんトコへ案内しますよ〜ッ!」

 そう言うと、チャーチィはゼフェルの返事も聞かずに衣装室へと連れていった。

 

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「この扉の向こうにアンジェがいます〜♪」

 そう言って、チャーリィが案内した場所は衣装室。

 何故こんなトコにアンジェリークが居るのかと疑問を抱きながらゼフェルは扉をあける。

「あっ★いらっしゃい〜♪」

 そこにいたのは、真っ白なドレスを着ているアンジェリークと、彼女の髪をとかしているオ

リヴィエだった。

 アンジェリークはゼフェルに気がつくと、恥ずかしそうに俯く。

「あっ、アンジェ照れてるの〜?このドレス、良く似合うのにッ!」

 オリヴィエが楽しそうに言うのをゼフェルは呆然として見ている。

「さっき、アンジェがね〜料理作ってる時にお鍋がひっくり返っちゃってすっごく服が汚れた

の。だからッ、替えのメイド服に着替える前に、着せかえごっこしてみたの★」

「アンジェは嫌がっとったんですけどね〜。御主人様がムリヤリさせたんですわ〜」

 チャーリィがそう言うのを聞くと、ゼフェルは部屋の奥へと入った。

 そして、アンジェリークの髪に触るオリヴィエの手を振払う。

「何すんのよ、ゼフェル!」

 オリヴィエが抗議しようとすると、ゼフェルはキッと睨む。

「出てけよ」

 ゼフェルの普段とは違う雰囲気に、オリヴィエは目を丸くし、そして微笑んだ。

(ゼフェルからかうのって面白すぎ〜〜〜〜!!byオリヴィエ心の叫び)

「あ〜っ、ハイハイ。わかりましたよ★チャーリィ、行くよ。」

「はいな。」

 オリヴィエがそう言い、チャーリィと出て行くのをゼフェルは確認すると、溜め息をもらし

た。

 そして、アンジェリークをきつく抱き締める。

 アンジェリークはきっと怒られると思っていたのに、彼の意外な行動に驚き目を丸くする。

「さがしたんだぞっ」

 ゼフェルはアンジェリークの髪を撫でながら言う。

「ごめんなさいっ。御主人様、、、あの、、」

 アンジェリークが何と言って良いのか分からずあたふたとしていると、ゼフェルは彼女の

格好をまじまじと見た。

 白い白いドレスを着たアンジェリーク。

 その姿は、いつもよりも儚く感じられた。

「あの、、、やっぱり似合いませんよね、、、?」

 真っ赤になりながらアンジェリークがそう言うと、ゼフェルは頷く。

「ああ。その格好だと、何かおめー、、、消えちまいそうで、、、、コワイ」

「、、、、私は、消えませんよ?」

 アンジェリークが微笑みながらそう言うと、ゼフェルは先程よりもきつく抱き締める。

「嘘だ」

 抱き締めてる感触はあるのに、その暖かな温もりは本当に消えてしまいそうで。

「、、、、おめーってこうやって抱き締めとかないと、本当に、消えるような気がする、、、最

近、クリスマスのせいで、おめーを抱き締める回数が減ってるんだぞ、、?クリスマスなん

て大嫌いだ」

 アンジェリークはゼフェルの幼い子供が拗ねるような口調を聞いてると自然と笑みがもれ

る。

「、、、、御主人様、、?クリスマスが終わったら、私に休日を下さい。それで、その日はず

うっと『私は消えない』って信じていただけるまで抱き締めてて下さい。」

 アンジェリークが頬を真っ赤にして言った提案にゼフェルは頷く。

 すると、、、

『リ〜ンゴ〜ン』

 鐘のなる音が聞こえてきた。

 不意に2人が時計を見れば6時ちょうどだった。

「、、、クリスマスが終わるのが楽しみだな、、」

 ゼフェルがそう言うと、アンジェリークは笑顔で答える。

 ゼフェルとアンジェリークはきつく抱き締めあい、微かに聞こえる楽しそうなパーティの音

を聞きながらクリスマスが終わるのを待っていた。

 

〜fin〜