告白


「なぁ、アンジェリーク。今日って何の日だ?」
 育成を頼みに執務室に来たら、いきなりこう聞かれた。
「?・・何か有りましたっけ?」
 判らないからそう答えると、ゼフェル様は、ちょっぴり意地悪そうな目をして、こっちを見てる。
「ったく・・。いいか?今日は何月の何日だ?」
 そっか。四月一日。
「エイプリル・フール、ですね。」
 一年に一度、嘘をついてもいい日だ。
「そ。おめ〜はただでさえ、ぼーっとしてっからな、騙されね〜ように、教えてやったんだよ。」
 む・・・。そのセリフも意地悪だと思う。何だか妙ににやにやしてるし・・・。
「何だよ?何か言いたそうな顔だなー?」
 いけない。・・顔に出てたみたい。
「別に、何も無いですよ。」
 誤魔化し笑いは少し引きつってるかも。だって、最近のゼフェル様、何となく意地悪なんだもん。
「まあいっか。んじゃ、今日が何の日か判ったとこで・・・。」
 びくんっ!
 ゼフェル様は、もたれていた執務机から身を起こし、私に近づいて来ると、いきなり私を引き寄せた。
 ・・・真剣な眼差しで見つめられて、視線が外せなくなってしまう。
 肩に置かれたゼフェル様の手に力が入って痛いくらい。
 あんまりドキドキしすぎて、つい逃げるみたいに、後ろにじりじり下がるんだけど、それに合わせてゼフェル様が前に出るから、二人の距離は広がらない。
 ついに壁際に追い詰められてしまった・・・。
「あっ・・あの・・。」
 背中に冷たい壁の感触。顔の横にはゼフェル様の腕。
 鼻と鼻がくっつく位、顔を寄せて囁かれる言葉。
「おれは・・、おめーのことが、き・ら・い、だよ。」
 !!
 判ってる・・・、今日がエイプリルフールだってことは。
 だけど、たとえ嘘でも、聞きたくなかった。
 視界が潤んでくるのが判る。
「なっ・・何だよ?嫌・・なのか?」
 泣き出した私に驚いたのか、ゼフェル様の慌てる声が聞こえた。
「っく・・本当の意味は、嫌じゃない。・・っ・・でも、・・その言葉は、嫌・・です・・。」
 途切れ途切れにしか、声が出ない。
「・・っ・・失礼しますっ!!」
 それだけ言って、執務室を飛び出した。
「おいっ!アンジェリーク!!」
 後ろからゼフェル様の声がしたけど、振り向く事なんか出来なかった。

 ゼフェル様の執務室を飛び出した後、私は自分の部屋に戻って、そのままベットに突っ伏して、泣きじゃくった。
 何で、今日なの?明日じゃダメなの?
 ゼフェル様の事が大好きだから、よけいに悲しくなる。
 本当の意味を考えれば、うれしい筈なのに。
 好きな人に、『きらい』と言われるのが、こんなに辛い事だったなんて・・・。

 ふと気が付くと、部屋は暗くなっていた。
 あのまま、眠ってしまったんだ・・。
 ベットサイドの時計を見ると、12時を少し過ぎたところだった。
——コツン。
 窓に何かあたった音がした。
 何だろう?立ち上がり、カーテンを開く。
「!っ・・ゼフェル様っ!?」
 なんでゼフェル様が、窓の外に居るの?どうやって?この部屋って、二階にあるのよね?
 疑問詞ばかりが頭に沸いたけど、このままという訳には行かない。
 焦りまくって窓を開くと、ゼフェル様は、するりと中へ入ってきた。
「あの・・、どうして・・?」
 視線を合わせにくくて、俯きながら声を掛けてみる。
「その・・やり直し・・っつーか・・」
「は?」
 ゼフェル様は口の中でモゴモゴ言っていて、よく聞き取れない。
「だから・・・、その・・っ、だーっ!めんどくせぇっ!!」
 突然、抱きしめられて、頭の中が、真っ白になった。
 ぎゅって、回された腕が、痛い。
 呆然となってる私の耳元で、ゼフェル様が呟いた。
「その・・今日は、悪かった。おめ—の気持ち、考えてやれなくって・・・。」
 驚いて顔を上げると、紅くなったゼフェル様の顔が間近にあって、ドキドキしてしまった。
「オレ、さ・・照れくさくって、今までおめーに言えなかった事が、今日だったら言えるって思って、さ。」
 視線を逸らしながら、続ける。
「でも、やっぱこういう事は、ちゃんと言わねーとな。・・もう、エイプリルフールも、終わった事だし。」
 そう言うと、真剣な顔で私を見つめ、こう言った。
「おめ—の事が・・好きだ。」
 聞きたかった言葉。やっと・・聞けた。
 嬉しすぎて、また涙が浮かんでくる。
「な、泣くなよ・・。ったく・・で?おめーはどうなんだよ。」
 そっと涙を拭ってくれるゼフェル様に、私は飛びついて、答える。
「私もっ!私も大好きですっ!!」
 あまりの勢いに、支えきれなかったゼフェル様と一緒に転がりながら、私はとっても幸せな気持ちだった。


〜fin〜