恋人たちの夜
〜アンジェリークサイド〜
いつもは常春の聖地。
だけど、この一週間は「冬」になっている。
だって・・・・12月24日は、『特別な日』なんだもの。
「24日だけは特別なんですっ。ゼフェル様っ」
「あ?宗教行事なんだろう?クリスマスって・・・・なんでそれがおめーやオレに関係すん
だ??」
「そうじゃなくって、そうじゃなくって、あの・・・」
「寒くなるとメカの調子もおかしくなっちまうしよー」
「ゼフェル様・・・」
「えっ?あのっ。待て!泣くなって、・・・・・オレが悪かった!!分かった。オレが間違って
たってば。寒いのもたまにはいいよな。体きたえねーとなっ」
「ゼフェル様・・・(わかってないっ)」
☆☆☆
12月24日は、『特別な人と過ごす日』。
「・・・うふふ。聞いたわよ。アンジェ。今回のゼフェルとのこと」
「・・・女王様」
「わたしからあなたたちにプレゼントをあげるからね。24日の夜に期待しててねー」
「でも女王様、ゼフェル様ってわかってくださらないんです。24日は特別な日なの」
「ゼフェルって下界によく降りてたのに、クリスマスの習慣知らなかったのねえ。意外」
「・・・寒いのはイヤだって」
ふふ、ともう一度女王は笑った。
「でもね、アンジェ。ゼフェルはねえ・・。なんだかんだ言って、あなたにすねられたり、わが
まま言われたりするのがホントは一番嬉しいのよ?だから、目一杯わがまま言ってやると
いいわ」
「本当に?・・・この日は絶対一緒にいてほしい日とか、下界での習慣って、聖地では関係
ないってわかってはいるんです・・でも、やっぱりこだわっちゃう」
「絶対本当!ゼフェルねえ、あれからルヴァのところに本を借りに行ったらしいわよ?クリ
スマスについての本。──それってきっと、あなたのためによね」
とにかく、わがままいったり、泣いてすねたりしてたくさん困らせておやりなさいな。
女王さまは楽しそうに言った。
そういえば、女王様とジュリアス様も・・言い合いしてても何だか楽しそうだったな。
「いいじゃない!12月いっぱい寒くしてたってっ。季節感もたまには必要ですっ」
「絶対に駄目です!ダメったらダメのダメダメ!!!」
「・・・・ふんだ。そんなに言わなくったって・・・。(小声)ジュリアスのけちんぼ」
「女王陛下っ!」
☆☆☆
24日。
ゼフェル様は迎えに着てくれた。
私邸へのご招待。
ゼフェル様の隣を歩きながら、ちょっとだけ別のことを考える。
女王様からのプレゼントって何だろう。
ゼフェル様の私邸についてから。
ゼフェル様に私からのプレゼントを渡した。
「これ・・・ずいぶん編み目がそろってねーな、おまけにちょっと長い。」
わたしまた泣きそうな顔をしたらしい。
「でも、すっげー嬉しい。・・・ありがとな。」
すぐにゼフェル様が付け足した。女王さまの言ったことって本当みたい。
わたしが笑顔になったら、ゼフェル様も嬉しそうに笑った。
☆☆☆
そのあと。
外はもう真っ暗になったころ。
「ゼフェル様、真っ暗ですよ・・・?」
いい物をみせてやるっと言って手を引かれて来たんだけど、真っ暗で何も分からない。
「アンジェ、今から・・・おめーにプレゼントをやる。受け取れよ。」
「えっ・・・あ!」
窓の外。
赤や緑の・・・小さな光が・・。
数百個とも思える小さな光が・・・・・
ゆっくりと点滅し、庭のモミの木を照らしていた。
「綺麗・・・」
振り向いて言うと、ゼフェル様もびっくりした様子をしていた。
「雪だ・・・・!」
(女王さまからのプレゼントって、雪のことだったの)
「ゼフェル様・・・外に出て見ませんか?」
外は一面の銀世界になっていた。
ゼフェル様のもみの木に、明滅する光の中に、白い綿雪がゆっくり次から次へと降りてく
る。
わたしのプレゼント。長いマフラーを二人でしてみた。
幸せだな。
ふと思って赤面した。ゼフェル様がこっちを見てたから。
(しあわせだな)
(お父さん・・・お母さん・・・。わたし、今ね──)
「あ、あの・・・この光景、マルセル様やランディ様、あとレイチェルとかに・・・」
ゼフェル様に両親を思いだしたこと言ったら、きっと心配する。
とっさに言いつくろっていたら、ゼフェル様の顔が近づいてきた。
長いあいだ、二人はモミの木の前で佇んで動かなかった。
「ここで・・・・オレ以外のヤツのことを口にするなよ」
「はい・・・」
(ゼフェル様はずっとわたしの側にいてくださる)
(これから先ずっと、この人だけは)
言葉はいらない。
ただ・・・
一緒に過ごせることに感謝したい。
24日は、そういう日なの。
雪はしんしんと降り積もる。
ツリーにも、ゼフェル様にも、わたしの上にも。
しあわせだな。
こんな風にいつも夜がふけて行くのなら。
二人でずっといられるなら。
どんなに長い時の中にいたって、わたしずうっと、しあわせでいられるよね。
END