恋人たちの夜
〜ゼフェルサイド〜


 いつもは常春の聖地。

 でも、ここ1週間は・・・バカに寒い。

 それもこれも、全て女王陛下の力だ。

 陛下がまだ聖地にやってくる前にいたところでは、12月には雪が降るとかで。

 本当は12月いっぱいくらい寒くしているつもりだったらしいが、ロザリアとジュリアス、そし

てエルンストに止められたっつー話だ。

 オレのメカも、急に寒くなったりしたら大変なことになりかねないので、どっちかっつーと

反対派だった。

「24日だけは特別なんですっ。ゼフェル様っ」

 アンジェが珍しく力説していた。

「あ?宗教行事なんだろう?クリスマスって・・・・なんでそれがおめーやオレに関係すん

だ??」

 あいつの言っていることが今いちよくわからない。

「そうじゃなくって、そうじゃなくって、あの・・・」

「寒くなるとメカの調子もおかしくなっちまうしよー」

「ゼフェル様・・・」

 オレの受け答えがまずかったのだろう。アンジェは瞳をうるませた。

「えっ?あのっ。待て!泣くなって、・・・・・オレが悪かった!!分かった。オレが間違って

たってば。寒いのもたまにはいいよな。体きたえねーとなっ」

 なんかまた間違っていたのか?

 そう言ったら・・・アンジェは口を閉ざしちまった。

 ・・・これは・・・ルヴァから本でも借りて読んでおくべきか・・・。

 仕方ねーなぁ。

 

☆☆☆

 雪を降らすと言っていた女王の言葉はウソだったのか。

 寒くはなったものの、雪は全然降らない。

 アンジェリークを迎えに行き、二人でオレの私邸へ向かって歩いているときにふと思っ

た。

 ま、いいけどな・・・別に。

 私邸に着くと、アンジェはちょっと恥ずかしげに袋を差し出した。

「あの・・・これ、プレゼントです。」

 中身は、手編みのマフラー。

「女王様に『12月、聖地も寒くなるから』って言われて、それで・・・編んでみたんです。」

 編み目がちょっとそろっていない、でも心のこもったマフラーを手にする。

 照れ隠しのために、アンジェのおでこをちょっとつついてこう言った。

「これ・・・ずいぶん編み目がそろってねーな、おまけにちょっと長い。」

 言われてしゅんとなるアンジェリーク。

「でも、すっげー嬉しい。・・・ありがとな。」

 今日は・・・素直に感謝の言葉を言うことができた。

 あいつの顔も、ぱぁっと明るくなる。

 さて、次はオレの番だ。

 

☆☆☆

 アンジェリークが持参した手作りケーキを食べたあと、部屋を移動することにした。

 そう、プレゼントを見せるために。

 外はもう真っ暗。

 準備はOKだ。

「ゼフェル様、真っ暗ですよ・・・?」

 明かりが全然ついていない部屋につれていかれたアンジェリークが、きゅっとオレの手を

掴む。

「アンジェ、今から・・・おめーにプレゼントをやる。受け取れよ。」

 アンジェリークの手を握り返しながら、もう一方のあいた片手で小さなリモコンを取り出

す。

 そして、ゆっくりとボタンを押した。

 そうすると・・・・

 赤や緑の・・・小さな光。

 数百個とも思える小さな光が・・・・・

 ゆっくりと点滅し、庭のモミの木を照らしていた。

「綺麗・・・」

 うっとりと眼を細めるアンジェリーク。

 だが、オレはその横で眼を見張っていた。

 確かにツリーの電球はオレがつけたもの。

 だが・・・・オレには予想がつかなかったもう1つのオブジェがそこに存在していた・・・・・。

「雪だ・・・・。」

 そこには一面の銀世界が広がっていた。

 そして今もなお・・・オレが飾ったモミの木に、庭に・・・しんしんと降りつづける。

 自分の作った世界に、雪という自分が作れないものが交じり合う。

 それがこのような幻想的な風景になるとは。

 それは・・・オレに不思議な感慨を与えてくれた。

「ゼフェル様・・・」

 気付くと隣でアンジェリークがオレを見ていた。

 蒼い瞳を輝かせて。

「外に出て見ませんか?」

 にっこりと笑って、ちょっとオレの腕を引っ張った。

 モミの木の前で、二人は佇んだ。

 アンジェリークにもらったマフラーを・・・・長いマフラーを二人ですることにした。

 このときばかりは、自分の身長に感謝してしまった。

(バカみたいに身長がでかくちゃ、これはできねーよな)

 そんなことを考えてしまう。

 一方アンジェリークは。

 真っ赤な電球に負けないほど、頬を染めていた。

 やはり・・・あまりにも恥かしかったのか。

 あいつはこんなことを言った。

「あ、あの・・・この光景、マルセル様やランディ様、あとレイチェルとかに・・・」

 ・・・多分「見せたいですね」とでも続く言葉は続けられなくなった。

 オレが・・・その唇を塞いだから。

「ここで・・・・オレ以外のヤツのことを口にするな。」

 ・・・長い長いくちづけのあとに・・・こう言った。

 その蒼い瞳は・・・オレだけのもの。

 オレたちの間に他人が入る余地はない。

「はい・・・」

 驚いた顔をしていたが・・・しばらくするとアンジェリークは笑顔をオレに見せた。

 そしてまた、自分たちの前に広がる風景を見る。

 言葉はいらない。

 ただ・・・

 この日を、アンジェリークと一緒に過ごせることに感謝した。

 雪はしんしんと降り積もる。

 ツリーにも、あいつにも、オレの上にも。

 こいつと一緒にいられたら・・・

 毎年こうやって、クリスマスを過ごせるなら・・・・

 俺は宇宙で一番の幸せ者に違いない。

 

END