本命? 義理?2


 アンジェリークは学習を終えると急いで鋼の執務室へ向かった。学芸館から宮殿ま

で走り通して執務室の前に来た頃には息は上がって苦しい。

「ふぅ・・・ふぅ・・・」

 息を整えて曲がったリボンを直し髪を梳いて執務室の扉をノックする。執務室から

返事が返るのを待ちながら期待と不安で早鐘を打っている胸の前で手を組んで自分

を落ち着かせようとする。

 今日はホワイトデー。密かに・・・といっても素直なアンジェリークは感情が顔に出る

ものだから周りにはバレバレだったが・・・本人は隠しているつもりの恋心を抱いてい

る相手、ゼフェルから答えを聞く日だ。内気な少女が精一杯の勇気を出してチョコを

渡した。チョコには「大好き」の言葉を忍ばせて・・・。

「ゼフェル様?」

 返事が返らない執務室にアンジェリークは首を傾げた。学習が終わったらすぐに来

いとゼフェルに呼ばれていたのだ。

 扉のノブに手を掛けて開けようかどうしようか悩む。真面目なアンジェリークは主の

いない執務室に無断で入るのは気が引けた。

「お留守なのかな?」

 キョロキョロと辺りを見回したが誰もおらず途方に暮れる。

 カチャン・・・カチャン・・・。

 鋼の執務室の中から物音が聞こえアンジェリークははっとした。機械の音のような

気がしてまたノックしてみたが、やはり返事は返らない。しばらく悩んでいたが思い

切って扉を開けた。

「失礼します。ゼフェル様?」

 声を掛けながら中を覗いたがゼフェルはいなかった。さっきの物音は何だったのだ

ろうと思いながら執務室の中を見回すと足元にメカがあった。

「アンジェ コレ ヤル」

 メカの手に可愛らしい袋が引っかけられておりアンジェリークは受け取った。

「ホワイトデー」

 メカがそう言うとアンジェリークは微笑んだ。

「ありがとう」

 お礼を言うとまるで聞こえたかのようにメカが片腕を上げた。アンジェリークはメカ

の前にしゃがむとたずねてみた。

「ゼフェル様はどこにいらっしゃるか分からない?」

 しかしメカは答えず黙ったまま。

『直接じゃなくてメカに渡すってことはこのお返しって義理なのかな?』

 アンジェリークは泣きそうになりながらため息を吐くとメカから受け取った袋の中を

見た。中には可愛らしいキャンディが入っている。キャンディとは別に何か箱が入って

いるのに気づく。箱の真ん中にはボタンのようなものが付いていた。その近くに「押

せ」と書いてある。

「何だろう?」

 首を傾げながらボタンを押すとメカがまたしゃべり始めた。

「アンジェ スキダ」

「!?」

 驚いてメカを見るとまた話し出した。

「ゼフェルハ アンジェガ スキダ」

「ゼフェル様・・・」

 嬉しくてメカをぎゅっと抱き締める。アンジェリークの腕の中でメカが「スキダ」と繰り

返している。

「私もゼフェル様が大好き」

 アンジェリークが答えたとたん、

「そういうことはメカじゃなくて本人に言えよな」

 と声が聞こえアンジェリークは飛び上がった。後ろを振り向いたが誰もいない。キョ

ロキョロ辺りを見回しているとガタンと執務机の方から音がした。椅子が押しやられ

机の下からゼフェルが這い出てきた。目を丸くしているアンジェリークのそばにテレた

顔で近づく。

「おめー、バレンタインの時もそうだったけどよ、そういう大事なことはオレに直接言

え」

「ご、ごめんなさい」

 驚きが冷めたアンジェリークは次にさっきの告白を聞かれてしまったという恥ずかし

さで耳まで赤く染まった。

 ゼフェルはメカで顔を隠し下を向いてしまったアンジェリークの頭をくしゃくしゃと撫

でる。

「ま、オレもメカに言わせたからおめーのこと言えねぇけどな」

 アンジェリークからメカを取り上げ無造作に床に置くとアンジェリークを抱き寄せた。

「オレ、おめーのこと好きだぜ」

 はっきりゼフェルの口から聞いたアンジェリークは涙で滲む瞳でゼフェルを見つめ

返しながら応えた。

「ゼフェル様が大好きです」



〜fin〜

〜後日談〜

 床に置かれたメカはゼフェルとアンジェリークが二人の世界に浸っている隙に執務

室を抜け出した。

「ゼフェルハ アンジェガ スキダ」

 繰り返しそう言いながら宮殿中を歩きまわったものだからゼフェルはしばらく某守

護聖2人にからかいの的になったという。



〜END〜