HAPPY NEW YEARS WITH YOU


  カチャカチャ・・
 静かな執務室に機械音が響く。

 この部屋の主はご機嫌斜めな様子でちらりと横に視線を送った。
 そこにはシンプルだけれど品よく包まれたプレゼントがある。
 初めて人を想って作ったモノ・・
 それを今だ、渡せないでいるため、彼はイライラしているのだ。
「ったく、マルセルたちがくだらねーパ-ティなんか開くからだぜ。」
 半分八つ当たりしながらつぶやく。
 確かに、この頃パーティなどが催され、忙しかったのも事実だ。
 だが実際の原因は、彼が勇気を出してを渡すことができないでいるところにある。
 もうすぐ年も明けてしまう、その時には絶対わたしたい・・
「ゼフェル−、入るぞ−!」
 こういう時に限って訪ねてくるのは一番見たくない奴だったりする。
「何だよ、ランディ野郎。何か用でもあんのか。」
 慌ててプレゼントを隠し、不機嫌そうに答える。
 ランディは相手のそんな様子を気にもせず、他愛の無い世間話をしてくる。
 しばらくは耐えていたぜフェルだったが、もう限界に達するかという時にランディがふとこんなことを言った。
「そういえば、アンジェリークが元旦のときだけ主星に降りたいって願い出たらしいよ。」
「は? マジかよ。」
 ゼフェルは思わず身を乗り出した。
 アンジェリーク、プレゼントの持ち主となるべき少女である。
 年越しにデートに誘おうと思ってたのだから、動揺してしまった。
「陛下もどうせ年越しはお休みにするつもりだったからってお許しになったんだってさ。でも何でなんだろうな、会いたい人でもいるのかなあ。」
 最後のランディの言葉がゼフェルの胸にささった。

−会いたい人?−

 そんな時タイミングよく、礼儀正しいノックとともにアンジェリークが入ってきた。
「ゼフェル様、育成お願いします。」
「あ、ちょうど今、君の話をしてたんだよ。年越しに主星に何しに行くのかなって。」
 ランディは早速聞こうとしている。
「もうお耳に入ってるんですか? なんかわがまま言っちゃって悪いですよね。」
 照れくさそうに笑いながら彼女は言った。
「実は、知り合いに神社の巫女さんのバイト頼まれてたんです。」
「え、巫女さんのバイト!?」
 二人は思わず声をそろえた。
「ええ、断っても良かったんですけど、せっかくだからやってみたくて・・。」
「へえ。アンジェリークの巫女さん姿きっと似合うだろうね!」
 こういうことを素直にさらっと言えるランディを、恥ずかしく思う反面、羨ましかったりもするとゼフェルは思った。
「ありがとうございます!! もし来られたらお二人も来て下さいね!」
 栗色の髪をなびかせながら、笑う彼女を見ながら、ゼフェルは決心した。

−年越しにアンジェリークに告白しよう−

 それは、彼女の着物姿を見たいという思いもあったのだろうが・・。

 大晦日、アンジェリークが聖地を後にしたころ、またゼフェルも一緒に行くと言ってきかないランディをほって、出発した。
 夜風の中、渡しそこねていたプレゼントを手にエアーバイクを飛ばし、高鳴る胸をおさえた。今日こそ素直になるんだ、そう心に決めて・・

 お参りで人が溢れる参道の中、ゼフェルはアンジェリークを探した。
<いたっ!>
 何人かの巫女が、おみくじやお札を配っているなかにアンジェリークもいた。
 そこにいるどの巫女さんよりも袴姿が似合っていて、可憐であった。
 ゼフェルはしばし見とれていたが、自己の目的を思い出し、アンジェリークに近づいていった。

 その時だった。
「あれ〜アンジェじゃん!」
「どうしてここにいるの、女王試験で聖地とやらに行ってるんじゃなかったのー?」
 何人かの男女の集団がアンジェリークに近づいてきたのだ。
「みんなっ!」
 アンジェリークの顔がぱっと明るくなった。
 昔からの知り合いらしい、話がはずんでいる。
 ゼフェルは足元が凍りついたようだった。
<俺には入れない世界・・>
 ランディの言葉がまた頭を駆け巡る。

−アイタイ人デモイルノカナ−

 ゼフェルはその場に立ち尽くした。

・・・・・・
「ゼフェル様!?」
 アンジェリークがゼフェルの姿を見つけて駆け寄ってくる。
「来て下さったんですね、うれしいです!」
「・・・」
「ゼフェル様?」
 ゼフェルは重くなっていた口を開けた。
「おまえさ、何しにここにきたんだよ。」
「えっ」
「手伝いだ何とか言って、ほんとはあいつらに会いにきたんだろ?」
「ちっ、違います!」
「あんな嬉しそうな顔してよ、そんなんで聖地抜け出すなんて、おまえもたいした奴だよな。」
「なっ・・」
 しまったと思ったときはもう遅かった。アンジェリークを泣かせててしまった。
<ったく、何で俺はいつもこうなんだ?>
「違うんです、そんなんじゃなく・・って」
「わかったから泣くなって。」
 手で涙を拭いてやろうと思ったとき、ゼフェルは思わずプレゼントを落としてしまった。
「ゼフェル様これは?」
 アンジェリークは泣き止んでそれを拾った。
「ばかっ!やめ・・見るな!!」

TO ANGELIQUE

 アンジェリークが手にしたプレゼントのカードには確かにそう書いてあった。
「これ・・陛下当てですか?」
 真っ赤になっていたゼフェルは思いっきりずっこけた。
「ばかっ! ちげーよ、同じアンジェリークでも、これは・・お前にだ!」
 アンジェリークは、一瞬真っ赤になり、そして笑い出した。
「? 何だよ」
「いえっわたし、ここに来る必要なかったなって・・思って。」
「?」
「ここ、恋愛成就の神様なんです。だからこれを掛けに来たくて・・」
 そういって出した絵馬には

−ゼフェル様が、私を見てくれますように。
             アンジェリーク−

 そう書かれていた。
 それを見たゼフェルはアンジェリークを抱きしめた。
「きゃあ!」
「そんなもんひつよーねーぜ。だって俺は、お前に会ったときからずっと見てたんだからな!」

 アンジェがバイトを終えた帰り、ぜフェルはエアーバイクを走らせる。もちろん後ろにはアンジェが乗っている。
「なあ、」
「なんですか? ぜフェル様」
「お前のこと、・・アンジェって読んでいいか? ほら、お前の知り合いが親しげに沿う・・呼んでただろ、だから。」
 真っ赤になりながらそう言うぜフェルに、アンジェリークは思わず笑ってしまう。
「もちろんです、そう呼んでください!」
「そうか!やったあっ!」
 子供のようにはしゃぐぜフェル、そんなかわいらしい面もアンジェリークは好きなのだ。
「あっ、ぜフェル様初日の出!」
「ああ、行こうぜアンジェ!」
「はい!」

・・・・・・
「ねえねえ、これアンジェの絵馬じゃない?」
「ほんとだやるー!」
「なんて書いてあるの?」

−ずっと二人一緒にいられますように・・・
             ANGELIQUE&ZEPHEL−


〜fin〜