ハナノサクキミ


 雪降る時計塔の下で咲いた君。

 笑顔を一つ、オレの胸に落としていった。

 誰かの誕生日だっていうこの日。

 何が嬉しいのか良く分からないけど、周りは浮き足立っている。

 アンジェから、

「今夜、あの時計塔の下で待ってます。」

 と、約束を取り付けられた。

 

 フタリダケノヒミツノ場所。

 アイツをどうしてもエアバイクに乗せたくて。

 怖がるアンジェをムリヤリ後ろに乗っけて、空を走り回ってた。

 空は、いかにも天候不良。

 今にも泣き出しそうで、アンジェが怖がる要因の一つだったのかもしれない。

 聖地では珍しい白い花びらが降ってきたと同時にバイクが故障した。

 何とか地面に足を無事付ける事が出来た時、前にそびえていたのが"あの時計塔"。

 雪の中に建つ、白く高い時計塔はとても幻想的だった。

 フタリダケノヒミツノ場所。

 誰にも見つからない、見つけた事のない白い空間。

「なんだか天使になったみたい。」

 アンジェがポツリと呟いた。

「白い白い空間。下界とは切り離された秘密の場所。誰も踏み込む事の出来ない場所に、

今天使と人が・・・。」

 そこまで言って、不意に黙り込む。

 何か言葉を紡ごうとする唇は、だが、言葉は出てこない。

 花びらの様に淡く、柔らかに舞う雪の中をゆっくりと歩く。

 その姿は、アンジェが言ったように、そしてその名前が示す通り、「天使」だった。

 愛おしい、手の届かない存在。

 決して、捕まえてはならない存在。

 今すぐにでも、目の前から飛び立っていってしまいそうな気配に思わず、腕を掴んでい

た。

 肩に積もった雪が下に落ち、アンジェは振り向いてこう言った。

「フタリダケノヒミツ ですよ。」

 あの時計塔の下。

 アンジェはすでに待っていた。

 あの時と同じように白い花びらの舞う幻想的な空間。

 月からの少しの明かりに浮かび上がる テンシ。

 それを見つめる ヒト。

 まるで・・・

「まるで 禁断ノ恋 みたいだ・・・。」

 つい、口を滑らして出てきた言葉。

「ゼフェル様?・・・まるでイケナイコトしているみたい。」

 オレは何だか、アンジェを見つめていられなくて背を向けた。

「ゼフェル様・・・。」

 そんなオレにアンジェは静かに近づいて、背中にコツンと額を寄せた。

 「今日は特別な日だから。いつものおどおどした自分は捨てて。言いたくても言えなかっ

た事を言います。」

 背中からアンジェの体温が伝わってくる。

「・・・好きです。ずっとずっと側にいさせて下さい。」

 アンジェの体が微かに震えている。

 静かに時を刻む時計塔。

 トクトクトクトクと鳴る心臓。

 降り積もっていく白い花びら。

 オレはアンジェを抱き寄せた。

「・・・言われなくても、そうするよ・・・っ。」

 イマ ヒト ガ テンシ ヲ ツカマエタ ———。

 

 雪降る時計塔の下で咲いた夜。

 笑顔が一つ、オレの胸を捕らえていった。

 

END