fortunetelling


 ゼフェルにとって二度目の女王試験が始まろうとしていた。
 今度の女王候補はやたら背の高い金髪の少女と、おとなしそうな茶色の髪の少女だ。
『見事に対照的だなー。金髪のほうはエリートらしいけど茶髪のほうは・・・あんな頼りなさそうなやつに女王試験やっていけんのかよ。』
 そんなことを考えているうち二人は挨拶しにゼフェルのところまでやってきた。
「オレは鋼の守護聖、ゼフェルだ。人々に器用さをもたらす。」
 めんどくさそうにいった。金髪のほうは元気よく、
「レイチェルです。宜しくお願いします。」
 と挨拶した。もう一人も、
「・・・アンジェリーク・コレットです。あの・・・」
 とここまで震える声で挨拶した後、ずっとうつむけていた顔を上げてゼフェルの顔を見た。
 その途端、アンジェリークはびっくりしたように蒼い目を大きく見開いた。
「な、なんだよ。オレの顔になんかついてんのか?」
「・・・あっ、すみません!・・・あの、宜しくお願いします。」
 とそれだけゆうと、真っ赤になってまたうつむいてしまった。
「!?なんだ・・・?」
 つられて赤くなってしまったゼフェルだった。


 謁見終了後、オリヴィエが
「ねえ、アンジェリークってば、あんたの顔を見て真っ赤になってたわよね?なーに?あんた達知り合いだったわけ?それともひとめぼれされたのかなー?」
 とからかうようにゼフェルにからんできた。
「ばか!なにいってんだ、知り合いな訳ないだろ!それに・・ひ、ひとめぼれなんて」
 と、しどろもどろになりながら答えた。しかしマルセルも、
「でも、ゼフェル。アンジェリークは僕達には普通に挨拶したんだよ。ゼフェルだけだよ。あんなに真っ赤になってたのは。」
「オレが知るかよ。ばかばかしい。もういくぜ!」
 ゼフェルはまた真っ赤になって逃げるように謁見室を後にした。


☆ ☆ ☆
 それからしばらくして・・・ゼフェルは森の湖にさぼりにきていた。
 いつもの昼寝場所まできたがそこには先客がいた。
 お気に入りの大きな木の幹にもたれてアンジェリークが眠っていた。
 最初の謁見以来、ゼフェルは彼女のことが気になって仕方なかったが、素直でない性格が災いしてわざとぶっきらぼうな態度で接してしまっていた。
 しかし、アンジェリークのほうはそんな態度を気にすることもなく、にこにことやってきては育成や話をしていく。
 最初は頼りなさそうに見えた彼女だが、ふわりとしたやさしい笑顔でみんなの人気を集め、女王試験の方も頑張ってレイチェルと互角の勝負をしていた。
 しかし、やはり天才と呼ばれるレイチェルについていくのは疲れるのだろう。
 そばに育成中のデータや宇宙学の本が散らばっているところを見ると、ここで勉強をしているうちに眠ってしまったらしい。
『ど、どうしたらいいんだ。起こすのも・・・かわいそうだな。』
 起きているときはまともにアンジェリークの顔を見られないゼフェルだが、眠っているアンジェリークなら遠慮なく顔を見ることができた。
「まつげなげー。それに・・・やわらかそうなほっぺただなー」
 ゼフェルはそっとほっぺたをつついてみたが、気づかずに眠りつづけている。
「ったくしょうがねーな。風邪ひいたらどうすんだ。」
 ゼフェルは自分のマントをはずすとアンジェリークにそっとかけてやった。


☆ ☆ ☆
「・・うーん、・・・あれ・・・私・・・?」
 アンジェリークが目を覚ましたのは夕方だった。
 ふと気がつくと白いマントがかけられている。
「?」
 不思議に思ってきょろきょろするとすぐ横でゼフェルが寝転んでいた。
「!!ゼ、ゼフェル様!!?」
「・・・おう、やっと目が覚めたか。」
「わ、私・・・?」
「オレが来たときおめーここで眠り込んでたんだよ。たく、オレだからよかったものの、万年発情期のオスカーあたりに見つかってたら何されてたかわかんねーぞ。」
 と、炎の守護聖がきいたら殴られそうなことをいう。
「す、すみません。私、木陰で育成のデータを見直すつもりだったんですけど、あんまりここが気持ちよかったものですから・・」
「だろ?ここはオレの取って置きの場所なんだ。オレもよくサボってここで昼寝・・・」
 さすがに女王候補相手にまずいと気がついたのか、こほんと咳払いすると、
「あーその、なんだ。まあ、おめーも疲れたときはここで休むといいぞ。」
 と、ごまかした。アンジェリークはふわりと微笑むと
「はい、そのときはゼフェル様に断ってから使わせてもらいますね。」
「ばーか、別にオレの場所って訳じゃねーからわざわざ断んなくてもいいって。」
 二人は顔を見合すとふふっと笑った。
 しばらく二人で雑談をしていたが、ゼフェルは前から気になっていたことを思い切ってアンジェリークに聞くことにした。
「あの・・・よ。アンジェリーク。おめー初めてオレに会った時なんであんなにびっくりしてたんだ?ずっと気になっててよ。」
「・・・!あ、あれは・・・その・・・」
 アンジェリークはまた真っ赤になってもじもじした。
「なんだよ、いえねーよーなことなのかよ。」
 ゼフェルがすごむと、アンジェリークはぶんぶん頭を振って否定した。
「ちがいます!でも、あの・・・怒らないって約束してくださいますか?」
 アンジェリークは上目遣いにゼフェルを見た。そのしぐさを見たゼフェルは
『かっかわいい!』
 と、思わず見とれそうになったが、無理に顔をしかめて
「なんだよ、オレが怒るような事なのかよ?」
 と低い声で言った。
「えっと、そういうわけでもないんですけど・・・。私この聖地にくる前に友達と占いをしにいったんです。」
「占いだ〜〜!?それがどうしたんだよ?」
 話の急な展開についてゆけないゼフェルは、きょとんとして聞き返した。
「友達が私のこれからのことを心配して、有名な占い師のところに連れて行ってくれて・・・。その占い師の方にこういわれたんです。」
 アンジェリークはそこでちらっとゼフェルの方を見るとこういった。
「『あらたなる地であなたはいくつもの困難にあうだろう。しかし、プラチナとルビーを身につけしものがあなたを常に見守り助けになるであろう。』・・・って。」
「・・・それってまさか・・・オレのことか?」
 プラチナにルビーときけば女性だとばかり思っていたアンジェリークは、プラチナの髪とルビーの目をした少年を初めて見た時、心から驚いた。そして、もしかしてこの人が・・・?と思うとすっかり恥ずかしくなって真っ赤になってしまったのだ。
「すみません。占いを鵜呑みにして変な態度をとったりして。ご迷惑ですよね。」
 と真っ赤になりながら申し訳なさそうにいった。
 ゼフェルはあまりの話にこちらも真っ赤になって、
「いや、別にその・・・はずれてもないぜ。おめー助けんの別にいやじゃねーし・・・。それにオレが気をつけてやんねーとおめーあぶなっかしいからな。だからオレのこと頼りにしてくれていーぜ。」
 というと照れくさくて横を向いてしまった。
「ほんとですか!?・・・えへへ、うれしいです。」
 というとアンジェリークはにっこり笑った。ゼフェルはその笑顔にまたみとれながら、
「そ、そうか?なんか困ったことやつらいことがあったら,真っ先にオレんとこにこいよ。他のやつんとこにいくんじゃねーぞ。絶対だぞ?」
「はい!」


☆ ☆ ☆
 占いのとおり、ゼフェルは常にアンジェリークの支えになり、二人はいつも一緒だった。
 アンジェリークが女王試験を降りて、いつまでもゼフェルと一緒にいることを選ぶのはもうしばらくしてからのこと・・・。


「占いなんて信じてなかったけど、たまにゃー当たるもんだな。ずっとずっと守ってやるから・・・オレのそばにいろよ。」
「はい、ゼフェル様・・・ずっとずっと見守っててくださいね・・・。」


〜fin〜