which? 〜1.疑惑 〜



 カカシと付き合い始めたのは、今から一年と少し前。
 最初にデートに誘ったのは私の方。
 その後、付き合ってくれって言ったのはカカシの方だった。

 最初は良かったんだよね。当たり前だけど。
 何をするにも新鮮で、周りにいる普通のカップルと何の変わりもなかった。
 人前でも平気でイチャイチャしてたし。
 逆に周りの方が、そんな私達を見てびっくりしてたっけ。

 でも、時間は残酷なものだ。
 そんな私達もいつしか倦怠期ってやつにはまり込んでた。
 付き合いだした頃は、このいちゃいちゃがずっと続くんだと思っていたけど、
 一年経ってみたら、なんて事はない。
 やっぱり永遠にそんな状態でいられるなんてことはないのだ。
 私だってカカシの事は好きだけど、何か物足りなくなっていたのは事実。
 彼も同じ気持ちなのかもしれない。

 1週間前の夜。
 秋らしく、夜は少し冷え込む。
 私は2人分の夕食を作りながら、カカシの帰りを待っていた。
 半年程前からカカシは私の部屋に住んでいる。
 同棲って言うような、大したものではないけれど、
 私の部屋で過ごす時間が多くなっていって、自然にこうなっていた。

  「ただいま。」
 毎日繰り返される、同じ言葉。
 私もいつも通り玄関まで出て行って、帰宅したカカシを出迎えた。
  「おかえり。」
  「あ〜。今日もナルト達に振り回されて大変だったよ。」
 笑顔でそう言ったカカシは、私の横を通ってリビングへ歩いて行った。
 私もその後に続いた。

 リビングに置かれた2人がけのソファに座って、カカシは口布を下ろす。
 その次に、ゆっくりと額あてを外した。
  「お疲れ様。お風呂、入る?」
  「そーだなぁ。今日は先にご飯食べたい。」
 カカシが言うのを聞いて、私はキッチンに向かった。
 少しだけカカシの雰囲気が違うなって思ったけど、あまり気にはしなかった。

 できたばかりの夕食をテーブルへ運んだ。
  「あ、今日は俺の好きな秋刀魚焼いてくれたんだ。」
  「うん。」
 嬉しそうなカカシを見て、私も嬉しくなった。
 全部運び終えて、私はカカシの正面に座る。
  「いただきます♪」

  「あ、これうまいなぁ。」

  「味噌汁、茄子が入ってる。俺の好きなものばっかりだー!」
 子供みたいに喜ぶ彼を横目に、何故だか私は食欲が沸いてこない。
 どうしてだろう。
 私も今日は任務でたくさん動いたから、お腹が減って当たり前なのに。

  「、食べないの?」
 置かれた皿に全く手をつけない私を見て、カカシが心配そうに聞いてきた。
 こっちを真っ直ぐに見ているカカシ。
  「・・・なんか食欲なくって。」
  「どっか具合でも悪いのか?」

 私の中で引っかかっていた事が、つながりそうだった。
 そう・・・・・。
 匂い。
 カカシが帰って来てから、ずっと気になっていた。
 秋刀魚のおいしそうな匂いに混じって、かすかに鼻をつく甘い香り。
 花の香りではない。
 何か、人工的な。
 香水のような・・・・。
 私も、カカシも仕事柄香水なんて付けない。
 だとしたら・・・・?

 黙ったままの私を、カカシはじっと見ている。
  「どうした?」
  「・・・・・なんでもないよ。」
 かすかな匂いだけを根拠にカカシを疑うなんて、私が疲れているからかもしれない。
 在り得ない。
 カカシがそんな事するなんて。

  「ごめんね。私、先に寝る。疲れてるみたい。」
  「そっか・・・。具合悪いとか、そんなんじゃないんだな?」
  「うん。大丈夫だから。・・・あの、明日片付けるから食器はそのままにしておいて。」
 さっさと立ち上がって、隣の寝室へ逃げ込んだ。
 着替えて、ベットに入る。
 向こうの部屋からかすかに音が聞こえる。
 食器のぶつかる、かちゃかちゃという音。
 お風呂の扉が開いて、閉まる音。
 やがて私は眠りに落ちて行った。
 いい知れない不安を抱いたまま。





 次の朝、目覚まし時計の音で目が覚めた。
 横では、カカシがまだ寝息をたてて寝ている。
 私はその銀髪をそっと撫でると、出かける準備をして家を出た。
 私には早朝から任務が入っていた。
 カカシを起こさなかったのは、その日彼が休みだって知っていたから。
 それに、私がこれからこなす任務について彼に知られたくなかった。
 たった1人での仕事。





 私のいない休日に、カカシは何をしているのだろう。
 今までそんな事思いもしなかった。
 カカシを信頼していたから?
 それとも、ただ彼の「愛してる」って言葉に安心しきっていただけ?
 カカシも知らない暗部としての私の任務。
 そんな危険な任務の最中に、余分な考えばかりが浮かんでくる。

 良く晴れた空の下。
 木々の間からこぼれる光の中で、私は標的となっている男を追いかけた。
 あまりその任務については覚えていない。
 なんとなく記憶に残っているのは、殺した標的の最後の表情。
 苦痛と絶望に歪む顔。
 その男が、一瞬だけカカシに見えた。





 人を1人殺した後で、私は気分が高揚していた。
 それがきっかけとなって、私は決断した。
 確かめてやろう。
 カカシが浮気しているのかどうか。
 静まり返る森の中で、カカシの前では使わない口寄せの術の印を結ぶ。
 白い煙が舞って、生き物が姿を現す。
 私の口寄せ、チハヤ。
  「・・・か。」
 無愛想な白い毛並みの雄猫。
 ・・・いや、猫ではないのだけれど。
 正確に表現すればヤマネコと言ったら良いかもしれない。
 ただ、普通のヤマネコにあるような斑点は無い。
 真っ白なのだから。
 最初、私が拾ってきた子猫を口寄せに選んだ時は、皆から笑われた。
 体が多少大きくても、所詮は猫だと。
 でも、猫は意外と残酷な生き物だ。
 一度標的を決めれば、散々いたぶってから殺す。
 足音も立てないから、追跡にも適している。
 この子を口寄せに決めてから、唯一失敗したなぁと思うのは
 予想以上に体が大きくなってしまった事ぐらい。
 今では1メートル程に成長している。

  「任務の途中か?」
 チハヤの金色の目は、いつもやる気が無さそうだ。
  「今日はもう任務は終わったよ。別に頼みたい事があるから・・。」
  「じゃ、誰か追いかける?」
  「・・・・うん。今日1日、カカシを追跡して。」
 驚いて、チハヤは目を見開く。
  「なんでカカシが標的なんだ?付き合ってんだろ?」
  「・・・・理由は何でもいいから、とにかく。」
  「分かったよ。」
 静かにその場を立ち去ろうとするチハヤに、私は一言言ってやった。
  「気付かれないでよ!」
 フンッと鼻息をして、チハヤは返した。
  「バカにしてんのか?猫は歩く時にだって音は立てないもんだぜ。」
 すばやく木陰に消えて行くチハヤの姿を、私は黙って見送った。













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私の思惑に反して、少しだけ長くなりそうです(汗)
カカシあんまり登場しないし。
しかもヤマネコって・・・(汗)
だって、ただの猫じゃ戦闘には向かないしなぁ・・・。
苦肉の策です(笑)
私、猫飼ってるし。
実家の無愛想な猫がモデル。
次からはもっとカカシ出てくるかも?

 
 
 
 
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