の部屋にあるのは、最低限の家電用品。

寝室に置かれた、やたらとでかいベッド。

そして、その窓際にぽつんと置かれた水槽。


が俺にとっての「一番大切な人」になって

幾度もの夜を一緒に過ごした。

だけど、俺には分からない事が1つある。

それは水槽の事。

の水槽には、魚なんて泳いでいない。

いつも綺麗な水が入っているだけ。





水槽





「なぁ、。この水槽って、何?」

毎夜のように繰り返される行為の後、俺はに聞いた。

「何って・・・。」

それ以上何も言わず、

は裸のままの上半身を起こして、煙草に火を点けた。

「この水槽、何にも入ってないだろ?どーして置いてあるのかなーって思ってさ。」

静かに煙を吐き出して、は少し笑った。

「俺、ずっと気になってるんだ。・・・前に魚飼ってたとか?」

「・・・・ううん。魚は飼った事ないよ。」

「じゃ、なんで?」

「カカシは気付いてないんだ。」

「え?」

落ちそうになった煙草の灰を、は灰皿で受ける。

俺にはどーゆー事なのか、さっぱり分からない。

「・・・飼ってるよ。」

「は?」

「だから、飼ってるんだって。」

「何を?」

だんだんとイライラしてきた俺に気付いて、はベッドを下りた。

それから窓に近寄って行って、一気にカーテンを開けた。

「カカシ、こっち来て見てみなよ。」

言われるままに、俺は肩越しに水槽を覗いてみた。

透き通った水の中には月が映っている。

「ね?水槽の中にいるでしょ?」

「飼ってるって・・・これの事?」

「うん。」

はにこにこと微笑む。

水槽に入っている月は、眩しい程にきらきらと輝く。

「月を飼ってるって事?」

「そうそう。」

冗談かと思っての顔を見たけど、妙にマジメな表情だった。

「なんで、月を?」

「・・・・だって、カカシみたい・・・。」








「銀色で、いつも綺麗に輝いてる。
 カカシがいない夜も、これを見てると・・・・
 カカシが側にいてくれるような気がするから。」







なんだ・・・・。

そーゆー事か。

俺が任務で忙しい時も、は「淋しい」なんて言わない。

こいつなりに我慢してたんだ。






。」

「何?」

が振り返るのと同時に、俺はその細いウエストに手を掛けて引き寄せた。

「あ・・。」

バランスを崩して、は俺の上に倒れる。

「淋しい時は、ちゃんとそう言えよ。」

「でも・・・・。」

「いいから。たまにはワガママ言えって。お前は我慢しすぎだよ?」

「・・・・うん。」

「俺にワガママ言ってもいいのは、だけなんだからさ。」

「うん。」

の少し冷えた体をベッドに引きずり込んで、唇を重ねた。

水槽の中に飼われた月は、やっぱり俺なのかもしれない。









なぁ、

お前の中に、いつまでも『俺』を飼っておいてよ。






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