silver.




 「私、結婚するかもしれない。」

 隠されていない左目で私の方を見て、カカシはご飯を食べる手を止めた。

 「・・・・・・・また、急な話だね。」

 こうして一緒にお昼ご飯食べるのは何回目だろう。
 幼馴染みのせいもあって、結構仲は良い・・・と思う。
 でも、話す内容は任務の話や担当している下忍の事ばかり。
 いつだって、カカシは冷静で。
 今、私が切り出した話もなんとも思ってないみたい。

 「付き合ってる人がいるなんて、言ってなかっただろ?」

 「まぁね・・・。お見合いしたの。」

 お見合いしたのは先週。
 世話好きな叔母さんに言われるままに。
 
 「相手の男って、どんな奴なんだよ?」

 「う〜ん、普通の人。」

 「何だよそれ。それが結婚しようとしてる相手への感想?」

 私だって、不本意だよ。
 でも、潮時かな・・・って思って。


 だってこれ以上カカシの事想ってたって、進展は望めない。



 コップに入った水を一口飲んで、カカシはまた私の方を見た。

 「そんなに早く結婚決めてどうするんだよ。」

 「・・・・いいじゃない。アンタにはそんな事関係ないよ。
  大体、私だっていつまでも一人でいるの嫌なんだもん。」

 素直になれないのは生まれつき。
 それに、カカシは私の事、ただの友達としか思ってないんだろうし。
 『好き』って言って、ふられるのも怖いし。
 所詮、私は意気地なしだ。
 カカシにこんな話をしたのも、あてつけ。
 もっとも、向こうは私の事好きじゃないからあてつけにもなんないけど。

 その後の会話も無いまま、昼休みの終わる時間がきて、私達は席を立った。

 カカシの奴、何にも言わなかった。
 なんか言ってくれてもいいんじゃない?
 本当に冷たい。


 午後の仕事は手に付かなかった。
 さして重要な任務も無く、午後は事務処理だけ。
 じりじりと時間が過ぎていって、帰る時間が来る。
 
 
 家への道が、なんだかひどく遠くて。
 いつまでたっても辿り着かない気がした。

 でも、気が付けば玄関が見えて、やっぱりいつもと変わらない。
 一人暮らしで、誰も待っていない部屋。
 鍵を出して、開けようとした時。
 誰かの気配。


 ためらった後、そのままドアを引くと、あっさり開いた。


 「おかえり。」


 当たり前みたいに、カカシが言った。

 「ただいま・・・・。」

 思わず『ただいま』と言ってしまって、自己嫌悪する。

 「何の用?」

 「何の用って、ちょっと冷たくない?。」

 カカシのその飄々とした態度が気に食わない。

 「大体、なんで人の家に上がりこんでるの?」

 「昼間の話。本気で言ったのか、確かめようと思ってさ。」

 カカシの顔を見ないように横をすり抜けて、
 小さなテーブルの前まで行って、椅子を引いた。
 それに合わせて、カカシも椅子に座る。

 「確かめるって、そんな必要ないよ。あんたが確かめる必要もない。」

 昼間と違って、口あてをしているカカシ。
 顔の半分以上が隠れているから、あんまり表情がわからない。
 なんだか余計に腹が立つ。

 「だって、結婚の話してる時のって、楽しくなさそうだったからね。」

 「でも、そんなの関係ない。結婚決めるのは私なんだから。」

 「自身が喜んでない結婚なんか、俺だって祝福できないよ?」

 本当に自分勝手。
 私の気持ちも知らないくせに。
 勝手な事ばっかり言わないで。
 ほっといてよ。



 腹が立って、逆に泣けてくる。
 私、今最高に惨めじゃない?


 「・・・・・もう・・・。」

 私の泣き顔を見て、カカシは少しびっくりしてる。
 
 「もう・・?」

 「もうこれ以上カカシの顔なんか見たくない!
  あんたにそんな事言われたくない!
  私の気持ちも知らずに勝手な事ばっかりして!
  いい加減にしてよ!」

 涙は止まらない。
 堰を切ったように、私の感情は一気に流れ出した。
 何を言っているのか、自分でもわからない。

 静かな部屋で、私は俯いて泣いた。

 「・・・。」

 「・・・・・・・。」

 「結婚するの、やめろよ。」







 「俺と付き合ってみてからでも、遅くないデショ?」







 思いがけないカカシの言葉が、私の涙を止めた。






 「ずっと言えなかった。好きだって言いたかったけど・・・。
  ふられて、お前との関係が壊れたらって考えると怖くてさ。」





 それからカカシは、座ったままの私を後ろから抱きしめた。
 私を包んでいるカカシの手が暖かくて、ぎゅっと掴む。

 「私も・・・カカシにふられるの、怖かったんだ・・・。
  




   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きだよ、カカシ。」






 単純な言葉。
 今まで言えなかったのに、びっくりするほど簡単に口から出てきた。
 それを聞いて、カカシは私から離れた。
 ごそごそと何かをポケットから出す音がした。

 コトン・・・と小さな箱を私の前に置く。

 「・・・・・?何?これ?」

 「開けてみてよ。」

 小さな銀色のリング。

 「・・・・これって?」

 カカシは照れくさいのか、私と目を合わせない。

 「・・・・・結婚指輪。」

 ぼそっと呟いたカカシ。
 私は可笑しくなって、笑った。

 「カカシ、気が早いね。」

 「・・・・お前が結婚するなんてい言うから、俺、結構焦ってたんだよ。」

 ぽりぽりと頭を掻いて、カカシは柄にも無い事を言った。

 「・・・・ありがと。」

 「・・・・・・お前の事、幸せにする自信はあるよ。」

 




 その指輪は、私の指には少し小さくて。
 カカシは「新しいのを買ってくる」って言ってくれたけど、私はそれを断った。
 その代わりに細い銀のチェーンを買ってきて、リングを通して首にかけた。
 今日も、日の光を受けて、私の胸でリングは輝いている。
 待ち合わせ場所に遅れて来た恋人の髪も、それと同じ綺麗な銀色。












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1111HIT。リクエストしてくださった、桜 いちご様へ。
一応片思いですが、私のせいで何気に幸せな話になってしまいました・・・。
ごめんなさい(^^;
許してやってくださ〜い。


 

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