あの人が、向こう側からゆっくり歩いてくる。

早くなる鼓動。

いつもなら、ここで目を逸らしてしまう。

だけど今日は・・・。

今日は、視線を落とさないで。

上手く話ができますように、と心の中で祈った。











幸せの欠片。












誰もいない朝の上忍待機所。

「おはよ。」

ドアを開けて入ってきたのは、いつにもまして眠そうな目のカカシ。

「お、おはよぅ・・・。」

自分でも情けないくらい語尾が小さくなってしまった。

、あれからちょっとは上達した?」

「え?上達って??」

「この間、コツを教えただろ〜。」

「あ!・・術のことだよね?」

「・・・ひょっとしてお前、練習してない?」

「いや、あ、そんな事ないよ。ちゃんとやってる。おかげで上手くなったよ。」

いつもこんな調子。

カカシの事を『ただの同僚』だと思えなくなってから・・・。

馬鹿みたいに意識しちゃって、話すのもままならない。

ほんと、私って情けない。



「なーんか、今日は俺、調子悪い・・・。」

「なに?昨夜は寝るの遅かった?」

ひょっとして彼女と・・・とか?

カカシのちょっとした言葉が妙に気にかかって仕方が無い。

「はぁ?そんなのいたら1人で飲みに行ったりしないって。」

苦笑いするカカシの目が、私の嫌な予感を打ち消してくれる。

「1人で飲んでたの〜?淋しくない?」

私も笑顔を作って、精一杯の皮肉を言う。

いつもの軽い会話。

カカシは参ったなって感じで頭を掻きながら、

「じゃあさ、今度飲みに行く時はが付き合ってくれる?」





「え・・・。」





今、何って言った?

一緒に飲みに行く?

カカシと?

ここで『うん。』って言わなきゃ。

こんなチャンス、もう無いかもしれない。

動揺を隠しながら、私が「いいよ。」って言おうとしたら。

「はは、無理しなくていいって。冗談、冗談。」

カカシのバカ・・・・・・。

冗談かよぉ・・・。

こっちは本気で誘って欲しいのに!

「だってほら、に彼氏とかいたらさ・・・迷惑デショ?」



良く分からなくなってきた。

もう私の頭の中は半ばパニック。

なんとか切り返さないとって思った。

「・・・あ、あいにく私に彼氏なんていませんけど?」

あ〜。

どうしてまたこんな言い方しかできないのかな、私。

カカシはそれを聞いてにこっと笑った。

「ふーん。も1人身かぁ。」

「にやにやしないでよ!しかも『1人身』って!淋しい女で悪かったわね!」

「はは・・そんなにムキになるなって。」

「いいもん。私はどーせ週末も1人で過ごす・・・」






「じゃ、今週の土曜は遊びに行ってみる?俺と。」





さっきよりも、もっと鼓動が早くなって。

心臓の音が周りにも聞こえてるんじゃないかって思えた。

私ができる返事は一つ。

「いいよ。」

その一言だけ。

嬉しくて顔がほころぶのを必死で抑えながら、

私はできるだけポーカーフェイスを装う。






「でもさぁ、カカシもよっぽど暇なんだね〜。私と飲みに行こうと思うなんて。」

言わなくてもいいのに、心の中とは正反対の皮肉が口から出てしまう。

「お前ねぇ・・。俺が・・・」

「なに?」

カカシが何を言おうとしたのかわかんない。

「なに?何言おうとしたの?」

「いいって、気にしなくても。ま、土曜日になればわかるよ。」

意味深な言葉を残して、カカシはまたにっこりと笑う。

「それじゃ、俺、ナルト達待たせてるからさ。ちゃんと覚えとけよ〜土曜日の約束。」

「う、うん。」


カカシは軽く手を振って、私から遠ざかって行く。

彼の最後の言葉の意味が気になって、多分今日の仕事ははかどらないんだろうなぁ・・・

と、私は思った。

それから、我慢してた顔の緊張が緩んで。

気が付いたら1人でにやにやしてた。

この先どうなるかなんて分からないけど

幸せのカケラを掴んだ気がした

天気の良い月曜日。














紅「。あんた、今日はやたらとにこにこしてない?」

「そうかな〜♪そうでもないと思うけど。」

紅「いい事あったんじゃないの?」

「まぁ、ちょっとね。」

紅「・・・・教えなさいよ。」

「・・・やだ♪」



 




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