共に歩く道










モンブラン・クリケットの家の片割れを目の当たりにして、
つまりは、ジャヤが空を飛んでいたということ。
この驚くべき事実を知って、
高鳴る胸を抑えながら3人はチョッパーが待つ祭壇へ戻る。

「しっかし、どうなってやがるんだ。信じられねェことだらけだな」
「うん。でも、ここが黄金郷だってことに変わりはないわ!
あ〜〜っわくわくしてきたあっ!!早くサンジ君たち、来てくれるといいんだけど」
「意外と戻ったら来てるかもしれないわね」
「そうだといいんだけど・・・」
なんだかんだ言いつつも、
ナミはサンジのことが心配そうで。
少し、足も速い。
それにしっかりついて行きながらも、
ふと、ロビンは目を止めた。
目を奪われたのは先程見た井戸のように、
木の下に埋もれている、
墓石のようなもの。

「・・・」
足を緩めて、視線を向けていると、
ゾロがそれに気付き、
声をかけた。
「どうした」
「ちょっと、先に行っててもらえないかしら」
「ロビン?」
ナミも気付いて、足を止めた。
かけられた声に目で答え、
ロビンはその方向に歩き出す。
その彼女の腕を、咄嗟にゾロが掴んだ。
「何?」
心なしか、ロビンの声が低い。
臆することなくゾロは、
「チョッパーの奴、1人じゃ心配だろう」
そう言い放つものの。
「なら、航海士さんと先に行ってて。
私は少し、調べたいから」

ゾロは目線を彼女が歩こうとしていた方向に向け、
納得したものの手は離さなかった。
祭壇で一人待つチョッパーはきっと心細いだろう。
一人置いてきたしまったことを、今更ながら心配に思った。
なるべく早く戻ってやりたい。
けれど彼女がこういったものに興味を示すことも分かっている。
言う通りに、ナミと一緒に先に行くのがいいことも。
それでも。

彼女は急に仲間になって、その目的はわからない。
ただ歴史という言葉に反応する、それだけは確かで。
こんなあからさまに謎の多いこの島で、
もし何か見つけて、例えばそれが彼女の探しているものだとか。
それを発見しようものなら、
彼女は自分なんか忘れてどこかに消えてしまうんじゃないか。
はっきりとそう感じたわけではないけれど、
まるでいついなくなってもおかしくないような彼女だから。
1人にしたくなかった。

そんなゾロの思惑なんか露知らず、
ナミは足を震わせながら叫んだ。
「ちょ、ちょっと!ロビンがそこにいるのは構わないけど、
私は1人で船まで戻れないからねッ!!」
威勢はいいが、言ってることは大層弱気だ。
ゾロははあ、と深くため息をつく。
「航海士さんもああ言ってることだし、
そろそろ手を離してくれるかしら」
言ってることは分かる。
頭では十分理解できる。
それでも。

1人にしたくないんだ。

手を離そうとしないゾロに、
ロビンの顔もだんだん怪訝そうになってゆく。
理由も言うわけでもなく自分の邪魔をする彼に、
不快な感情を覚える。
海軍の、あの黒い髪の女性のように、
自分の行く手を阻むかのような彼に。
ただ彼女の信念といおうか、
それともただのこだわりというのか、
彼に対して能力を使いたくなかった。
その代わりに態度で示す。

「私を怒らせたいの?」
低い声で尋ねるロビンに、ゾロも聊か戸惑う。
そういうわけではないのに、
やはり何て言えばいいのか分からないのだ。
1人にしたくない、などと、
いなくなるのではないかと不安なんだ、などと、
そんなことを口が裂けても言えるものか。

「そうじゃ、ない」
「それなら離して」
「・・・・・・1人でいるのは、危険だろう」
彼女の強さは分かっているのに、
何か理由をつけたくて、そんな言葉が出た。
ロビンは呆れたように目を閉じて、
もう一度開くと鋭くゾロを見つめた。
「あなたに心配してもらわなくても、私は1人で十分平気」

心のどこかが、締め付けられる気分になった。
その途端腕の力が緩んで、
隙を見逃さずロビンの腕がするりと抜けて、
彼女は歩き出す。
別にここで歩かせて、
自分はナミと共に戻っても、
後で合流出来るんだろう。
きっとそれで構わないけれど。
きっと戻ってくるんだろうけど。
それでも。

もし。
このまま、
自分の腕で掴めないところに、
歩いていってしまったら?

「ちょっと、ゾロ!?」
ナミの非難の声なんか耳に入らなかった。
足早に歩くロビンの背を追って、
走り出して・・・・・・・・・———


思い切り、足を滑らせた。
「ゾロ!!あんた、何やってんの!!」
ナミも駆けつけようとするが、
ゾロの二の舞になるのはごめんなので慎重に歩みを進める。
その間にロビンが戻ってきて、
木の根と根の間に挟まっているゾロの元に寄り、
先程まで強張っていた頬を思わず緩ませた。
「・・・・・・ふふっ」
「わ、笑うな!!」
バランスを崩したゾロは中々起き上がれない。
刀がどこかにひっかかっているようだ。
恥ずかしさに、顔が熱くなる。
ロビンは腕を伸ばして、ゾロの腕を掴んだ。
「立てる?」
「あ、ああ」
強く引いてもらい、何とか起き上がることが出来た。
ロビンはゾロの滑稽さにくすくすと、笑っている。

ナミがやっと辿り着こうかとするときに、
ゾロは軽く咳払いをして小さな声でロビンに告げる。
「分かっただろ。おれは、お前がいないと困るんだよ」
恥ずかしさと、今の言葉のせいで照れた顔を隠すように、
目線は逸らして。
ロビンは言われて柔かく微笑む。
腕は、離さないまま。
「・・・そうみたいね」
「ゾロ!あんたバカじゃないの、大丈夫?」
2人のいい雰囲気・・・の中にナミが飛び込んでくる。
「ええ、大丈夫みたいよ」
ロビンがそれに笑顔で答えるが、
ゾロは邪魔しやがってと言いたげに、
無言で立ち上がった。
「戻るぞ」
ロビンの目を、今度はしっかり見据えて。
「ええ」
「え、いいの、ロビン?」
ナミだけが事情を飲み込めずに、その場に立ち尽くす。
ロビンは掴んだ腕を離さずに、
ゾロもそれに何も言わずに、
歩き出す。
「待ってよ、二人とも!!」
ナミも慌てて、二人を追う。


今はおれだけでも、いい。
まだ、今は。
この腕を、
お前も離せなくなるまで。
1人で歩くのが心細くなるまで。
その時まで。

共に歩く道を、どうかおれに与えてくれないか。