年上だから、リードされる?
年上だから、敵わない?
年上だから、おれは・・・


年上の彼女








「お、見えてきたぜ!結構でかい島だ」
ずっと双眼鏡をのぞいていたウソップが、喜々としながら声をあげた。
海岸に船を寄せ、碇を降ろす。
ナミはざっと島の景観を見て、
「そうね、ログがたまるまで2日ってとこかしら。
たっぷり1日はゆっくりできそうね」
喜んでそう言う。
隣ではサンジが目を輝かせながらデートコースを考えているようだ。
ルフィもいそいそと身支度をする。
「ウソップ、ここには肉あるかなあ」
「お前はそればっかりだな」
「ナミ、薬草が切れたからお金が欲しいんだ」
「はいはい、2000ベリーで足りる??」
「うん、大丈夫だと思う」
「ナミ——!!おれ、肉が食いてェ」
「アンタは使いすぎるから駄目ッ!!私が買うわ」
「んナミすわ〜んっ、お買い物お供しま〜す!!」

思い思いに走り出す中、
今日の船番はゾロ。
ナミに酒を買ってくるように頼んでから、
いつもの場所に腰かけ、目を閉じる。
けれど何故か眠れなくて、
うるさい声が聞こえなくなってから、
立ち上がってキッチンへと向かった。

冷蔵庫を開けたけれど、めぼしい物がない。
そういえばあのコック、
冷蔵庫の中身が空だと嘆いていたっけ。
仕方がないので水をコップに注ぎ、飲み干す。
「あら、起きてたの?」
突然の背後からの声に、水を吹き出す。
「大丈夫?」
「ぶっ・・・てめえ、いるならいるって言え」
手の平で口を拭い、彼女を振り返る。
小さく笑いながら、キッチンの扉に手をかけている。
「出掛けなかったのか」
「ええ、特に用もなかったから」
近づき、ゾロが置いたコップを手にして水を注ぐ。
一口だけ口に含んで、
こくり、と喉を通らせる。
すっと通った白い喉に、
さらりと流れる黒い髪。
ゾロはそれらを見ながら、
先日交わされたばかりの口付けを思い出す。


そんな彼の目線に気付いて、
彼女はコップを置いて微笑んだ。
ゾロの浮かべる、照れて困ったような表情。
そんな彼の額に、そっと口付けた。
水を含んだばかりの唇は、
先日とは違ってひんやり冷たい。
そのまま彼女は腕を首にかけて、今度は唇を重ねる。
どうしたらいいのか戸惑い、
ゾロは体を強張らせた。
体の芯が、熱くなるのが分かった。

「年上の女は嫌いかしら?」
彼の伏せがちの目を覗き込むように、
下のほうから目線を合わせて、
それでいて少しでも動いたら唇が触れそうな距離で、
尋ねてきた。
右手の指先が、
首元を伝って顎を通り、唇をなぞる。
全神経がその指先に支配されたかのように、
体中が反応する。
その細い指に、彼は自分の指を絡める。
それからもう一方の手を彼女の腰に回して、
そっと、抱き寄せる。

「体・・・堅いわ。緊張してるの?」
耳元で笑いながら、問い掛けてくる。
「・・・・・・まさか」
彼女は彼の指を弄びながら、
首筋に軽く何度も、キスを繰り返す。
心地良いけれど、
心拍数は上がるばかり。
彼は不覚にも、上着を超えて侵入してきた彼女の指に、
びくん、と体を揺らす。
「どうかしたの?」
意地悪そうに笑いながら、問い掛けてくる。
ゾロは耳まで赤く染め、その微笑から目を背けた。
そんな彼の頬に手を当て、
自分の方に向かせて彼女はまた、深く口付ける。
意を決したように、彼も一呼吸置いてから、
彼女の肌に直接手を伸ばす。

他に誰もいない船内のキッチンで、
けれど、まだ日は明るいこんな時間に。
さして言葉を交わすわけでもなく、
抱き合って。
あのコックが知ろうものなら、
どんなリアクションをするんだろうな、
などとぼんやり考えていたせいだろうか。
突然。

「ごめんごめんナミさん、怒らないで」
「もう、アンタってどこまでバカなのよ!食材のリスト忘れるなんて」

どたどた、という足音と、
サンジとナミの大声が耳に届き、
2人は手を止めて息を飲んだ。

「早く持ってきなさいよっ」
「うん、ごめんねナミさんvvたしか、キッチンに・・・」

キッチン!?
今、入ってこられたら。
それは、最高にマズイ。
ゾロは思わず、血の気が引いた。

咄嗟にロビンはゾロの手を引いてコンロと冷蔵庫の隙間に滑り込んだ。
リストのようなものは、テーブルの上に置いてある。
あの位置からなら、ちょうど死角になって見つからないだろう。
・・・・・・運がよければ。

きい、とドアが開いて、サンジの影がキッチンへ差し込む。
「あったあった、ナミさんvv」
「あったじゃないわよ、全く・・・。あら?
そういえばゾロ、いなくない?」
キッチンの外から、ナミが声をかけた。
いつもの場所で眠ってないわ、と続ける。
サンジはリストを手に取ると、ドアに向かう。
「ほんとだ。何だ、どこ行ったんだ?あのマリモは」
呆れたような声。
ゾロのロビンに触れる手が、汗ばんでゆく。
「まあ、どこかにいるんじゃねェ?それよりナミさん、デートの続きv」
「んー・・・ゾロのことだから、心配要らないわね」
信用されているんだか、
どうでもいいと思われてるんだか。
しかしここで船内を探されても、
それは非常に困った事になる。
サンジとナミが立ち去るのを、
気を張り詰めて待つ。

待っていたら。
「・・・っ!」
まるでそんな状況を楽しむかのように、
ロビンはまた首筋にキスをし、
舌をすべらせた。
「ばッ・・・・・・!!」
非難の声をあげようとするゾロの唇に、
人差し指で制止を訴える。
「?サンジ君、今なんか声聞こえなかった?」
「そ?おれには分からなかったけど・・・」
「気のせいかな?」
気のせいだ。
畜生。
ロビンはゾロの反応を楽しみながら、
胸に頬を寄せる。
ゾロの鼓動のオトが、響く。
サンジとナミの足音と声が遠くなって、
やがて聞こえなくなったのを確認して、
やっと2人はその狭い空間から抜け出した。

「バカ野郎、何考えてやがる!」
「ふふっ。気付かれるか、気付かれないか・・・って、
少し楽しかったでしょう?」
悪びれる様子もなく、
さらりと言いのける彼女に、ゾロは息を吐く。


年上だからとか、そんなことじゃない。
お前だから、
こんなにペースが狂わされるんだ。


頭を抱えるゾロを、
ロビンがまた優しく抱きしめる。
「続き」

あいつら、また戻ってきたら、許さねェ。
・・・それはあいつらのセリフか?
そんなことは、どうでもいい。
とりあえず、今は・・・

邪魔、するんじゃねェぞ。