今まで、どうでもいいと思っていたことなのに
自分には関係のないことだと
興味もなかったし
俺は強くなるために生きているから
・・・生きていたのに

その19年間を、
簡単に打ち砕いたのは、



Break;











頬を、冷たい風が掠めた。
冷たい、などと、
前はあまり感じてなかったような気がする。
寒いのだとか、
暑いのだとかは平気なほうだ。

それでも、
例え冬島にさしかかっても厚着をするほどではない。
前より少し、冷たさを感じるようになっただけ。
それは・・・

「剣士さん。夜は冷え込むわ」

夜12時を回る頃、風に長い髪を揺らして、
お前は上着を肩にかけてくる。
そう、
きっと、お前のせい。


「そう言うお前は、随分薄着だな」
「私は見張りじゃないから、大丈夫」
それだけ言って立ち去ろうとするお前の腕を、
強めに掴み、引く。
「何?」
分かっているくせに、尋ねる。
このもどかしさも、
気分を高ぶらせているのだから、困る。


見張り台に引き込み、腰から抱きしめる。
指先に唇をあてると、ひんやり冷たい。
「強引ね」
その指を、つつっと滑らす。
唇をなぞってから、てのひらで頬を包んで、
やわらかな、キス。
唇も冷たい。
けれど、
熱い。



「ここにいたら風邪をひいてしまうわ。
お先に。おやすみなさい、剣士さん」
何度か口付けを交わして、
お前は部屋へと戻る。
まだ熱をもっている唇に触れると、
数分前のお前の表情が浮かんで、

それは唇が冷えても、
どれだけ時間が経ってもそこに残っていて、


そのたびにお前を愛しいと思う。

こんな感情を持つとは思わなかった。
今まで感じたことなどなかったのに、
突然お前が現れて、

突然、

壊した。


今までの考えを。
19年間の考えを。
簡単に。

これが、
心地良い感情だということを、
知った。
お前の肌の温度を感じて、
風が冷たく感じるようになった。
お前が壊した今までを、
直さなくても構わないと思ってしまっている。




それでくだらない感傷に浸ることになっても、

あの感じた熱と引き換えなら、

悪くない。