何なの。もう。何なのよ。





あァ・・・ったく、何でこんなにイライラするんだ。


喧嘩






それは快晴の日。
久しぶりに大きな島に辿り着いて、
ログがたまるまで自由行動をとって。
毎回交替でやってる見張りは、今回はルフィとウソップ。
せっかく大きな島なのに、と文句を言ってたから、
途中からロビンが変わるというコトになった。
ロビンたら、心が広いわ。

「航海士さん、見張り交代するまで買い物付き合ってくれる?」
船を降りる準備をし始めて、後ろから話し掛けてきたロビンに、
私は笑顔で頷く。サンジ君とデートの予定もあったんだけど、
それは交替のあとでも十分でしょ。
梯子をかけて、降りていくと船の上からサンジ君が顔を覗かせた。
「あれ、ナミさん、ロビンちゃんとデート??」
「うん、買い物付き合ってくる。サンジ君も食材買って来るでしょ?
その後私の買い物に付き合ってよ」
「アーイ!」
サンジ君の扱い方はだんだん分かってきてる。
他の人と話してても、前はちょっと嫉妬とかしてたけど、
最近はフォローを忘れないようにしてる。
今みたいに、ね。
「お邪魔じゃなかった?」
「全然。行きましょ」

ロビンの買い物に付き合うのは、楽しい。
センスがすごくいいし、初めて行った街でも、
お洒落なお店をすぐに見つけるから。
そこでロビンの服を買ったり、目をつけておいて、
あとでサンジ君と一緒に来て荷物持ち兼、
似合うかどうか見てもらうって感じ。
まあ、サンジ君は私が着るとなんでも似合うって言うから、
あまりアテにならないけどね。
「このスカートかわいいっ」
「航海士さんに似合いそうね」
「やっぱりそう思う?」
ロビンとは10歳も離れてるけど、
それを感じさせない。最初は信用できないって思っちゃったけど、
今は結構頼りにしちゃってる部分がある。
そんなこと考えながら、ある程度まとめて洋服を買って、
ゴーイングメリー号に戻る途中で。

私は、見てしまったのだ。

「あら、あれ・・・」
「何、やってんの、アイツ」
私の目に飛び込んできたのは、
サンジ君が私よりはいくつか年下に見える少女の、
肩を優しく抱いて歩いているところだった。
優しい笑顔。
あんな顔は、私の前だけだと思ってたのに。
何よ、それ。
何なのよ。
『おれには、ナミさんだけ』
『ナミさんは特別』
アンタが、毎日私に投げかけてくる言葉。
ああ、そう。
ウソなの?
結局、私じゃなくてもいいの?

「声、かけましょうか?」
「いいッ!知らない、あんな奴」
「そう?」
楽しかった気分も一気に萎えて、
ロビンも何も話さずに、
私たちは帰途へ着いた。

ゴーイングメリー号には、
出かけたくてうずうずしてる様子のルフィとウソップの姿が見える。
「お!ロビン!待ってたぜ!!」
「肉ーー!!」
私のキモチなんか知るわけもないけど、
能天気に騒いでるルフィ達に、
やたらイライラが募る。
当たってしまうだけだと分かっているから、
私は早足でルフィ達の横を通り抜けて部屋に戻った。
「ん?ナミの奴、もういいのか?」
「ウソップ、肉買おうぜ肉!」
「いやそりゃサンジがちゃんと買ってくるだろうよ」
2人はさほど気にすることもなく、
ロビンの行ってらっしゃいという言葉に後押され、
大喜びで島に下りていった。

ロビンは特に私に何も言ってこない。
よく分かってるわ、こんなときの私は触らぬ神になんとやら、
そういう状態だってこと。
後でやろうと思ってた航海日誌に集中しようと日誌を開いても、
何も頭に入ってこない。
ペンにインクをつけても、指が動かない。
ビビやロビンが仲間になって、
そのたびに私もちょっとは嫉妬したわ。
アンタは女の子に優しいから。
でもそのたびに誤解は解いてくれた。
優しく抱きしめて、
『ナミさんだけ』
そう言ってくれてたから、私は安心して好きでいられたのに。
バカ、サンジ君のバカ。
どうして簡単に他の女の子に触れるのよ。
どうして簡単に優しく笑って見せるのよ。
私だけなんでしょ。
私だけって言ったのに。
もう、こんなに苦しいキモチは初めてよ。
もう、ホントに好きなのよ。
どうしてくれるのよ。

バカ。






***********************








食材を両腕いっぱいに抱えて、
やっぱりチョッパーはマリモ野郎に預けずに、
おれに着いて来させて荷物持たせるべきだったか、
と少々反省する。
それにしても新鮮な食材が多く手に入った。
ナミさんのために、旨いメシを作るためには鮮度が重要。
今日の晩メシは、力が入りそうだ。
そんな理由で機嫌もよく、
ゴーイングメリー号に戻ったおれは、
本を読んでいるロビンちゃんの姿を見てやや足を早めた。
ナミさん、もう戻ってきてたんだ。
この後は楽しいナミさんとのデート。
早く戻って、1分1秒でも長くナミさんとのデートの時間を作らないとな。

「ロビンちゃ〜ん、ただいまっ」
「おかえりなさい」
本を一旦閉じて言う彼女の瞳には、
何かもの言いたげな風だった。
「?」
疑問に思いながらも、
早くナミさんに会いたくて、
おれは食材をキッチンまで駆け足で運んで、
浮かれた心でナミさんがいる女部屋のドアをノックした。
「ナミさん、お待たせ−!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・??
ナミさんの返事が返ってこない。
念のためもう一度ノックをしてみても、結果は同じ。
「ナミさん?」
ドアノブに手をかけてみたけれど、
鍵がかかっていて開かない。
どうしたんだろう?
具合でも、悪いんだろうか。
そこでおれはロビンちゃんのほうに踵を返す。

「ロビンちゃんっ」
「何?」
「ナミさん、具合でも悪ィ??部屋から出てこないし、
返事もねェんだ」
「ああ・・・そうね、具合というより、機嫌が悪いでしょうね」
「機嫌??ナニかあった?」
街で何かあったんだろうか。
ナミさんを怒らせるような奴がいるなら、
おれがいくらでも相手するぜ。
・・・と、勇んでいたら。
ロビンちゃんがゆっくり、おれを指差した。
意外な反応に、おれは言葉を失って立ち尽くす。
「・・・おれ?」
「そう」
ロビンちゃんは頷くと、本を持って立ち上がった。
「後は航海士さんに聞いて頂戴」
笑顔でその場を立ち去る。
おれは追うことも出来ない。
思い当たるフシ、
そりゃ、
ある。

さてどこで米を手に入れようかと、
街をぶらぶら歩いていたとき。
街の片隅にふと目を向けたとき、
線の細い女性が座り込んでいた。
顔を両腕で覆って、苦しそうな様子。
困っているレディを放っておくなんざ、おれには出来ないこと。
すぐに駆け寄って、声をかける。
「大丈夫?」
ゆっくり顔を上げると、そこにはおれよりいくらか幼い少女の顔。
消え入りそうな小さな声で、呟く。
「少し、吐き気がして。大丈夫です、すぐに直ります」
顔は青白く、素人目から見ても大丈夫そうには見えない。
おれは戸惑う彼女の肩を抱き、立ち上がらせる。
「大丈夫、でもなさそうだぜ。家まで送ろう」
「そ、そんな、悪いです」
「悪かないさ。麗しい少女を助けるのは男の使命だ」
「・・・すみません」
やや強引に、そのまま家まで送って、
お礼をという彼女の言葉をやんわり断って、
速攻で食材買って戻ってきた、という流れだったんだが・・・
どうやら、彼女を連れて行くところを見られてしまったらしい。

でも、ナミさん。
アレは人助けであって、おれにはシタゴコロなんかありません。
あれば、彼女のお礼を断るわけないだろ。
ナミさんのことしか考えてないんだから。
ナミさんが嫉妬する必要なんて、ないんだぜ。
まァ、それもかわいいけどな。

理由がわかればあとは話が早い。
おれはまた女部屋に踵を返そうとすると、
ちょうど部屋から出てきたナミさんの姿が見えた。
ナミさんはおれのことなんか気付かないフリをして、
船を降りようとしている。
慌てて呼び止めて、ナミさんの腕を掴む。

「ナミさん、待って。おれも一緒に行く」
けれどまだナミさんの目は冷たくて、
軽く腕はあしらわれる。
「遠慮するわ、サンジ君のお相手なら沢山いるでしょう」
「ツレナイこと言わないでよ、ナミさん。誤解、してる」
「いい、言い訳なんて聞きたくない」
「言い訳じゃないよ、アレは、」
「聞きたくないって言ってるでしょ。もう、知らないサンジ君なんか」
「ちょっとナミさん、折角なんだから怒らないで、デートしよ」
ありったけの笑顔で言ってみたけれど、
ナミさんの態度は変わらない。

こんなにおれはナミさんのことが好きなのに。
そう言ってるのに。
ナミさん、何で分かってくれねェんだ?
「い・や!誰が、アンタなんかと」
「何、ナミさんそんなにおれのこと信用できねェ?」
「ええ、出来ないわ。アンタなんかハナから信用してないわよっ!バカっ!」
「ちょっと待ってくれよ、ナミさん。おれの話聞いて」
「聞かない聞かないっ!!」
ナミさん、話も聞かずに怒るなんて、あんまりじゃないか?
話せば分かることだろ??
・・・あァ、なんだろうな。イライラしてきた。
「ナミさん、おれはさ、ナミさんだけだから」
おれのその言葉も、まるで聞かずに、
ナミさんは梯子に手をかけてさっと下りて、 
振り返りもせずに街の中に走っていった。

・・・なんだよ、ナミさん。