だって緊張するじゃない。
ドキドキしてることとか、
大好きだってこととか、
全部、わかっちゃうじゃない。



手をつなごう







今日は初デート。

空は、ちょっと、くもり。
でもそんなこと全然気にしてないサンジ君。
さっきからサンジ君の周りだけ春島のようだわ。
朝食も、いつもより豪華だったし、
見張りのチョッパーとルフィには特別デザートなんか用意しちゃって。

もう、分かり易すぎるのよ。                       
目が合ったときの笑顔なんて、                
いつもより崩れちゃってさ。                
見てられないわよ、サンジ君たら。            
                                       
「サンジさん、随分嬉しそう」                    
半ば呆れて、ビビも呟く。           
お願いだから、笑って私の顔を見て、            
コメントを求めるのはやめて。             

そりゃあ、私だって嬉しいわよ。
ちょっぴり、楽しみにしちゃってるわ。
コイビト、なんて肩書きは気恥ずかしいけど、
サンジ君と気持ちが通じてから初めて2人で出かけるんだもの。

ゆっくり島に船を近づけて、
さあ、始まり。

皆の視線なんかに晒されたくないから、                 
私はちょっぴり早足で船を降りて、歩いて。             
それでもサンジ君はにこにこ(ニヤニヤ?)しながら、              
隣にぴったり位置付けて。              
なんだか照れくさくて、                
街につくまでサンジ君が何か話をしてたけど、
耳に入らなかった。
だってデートなんて、したことないのよ。
緊張するに、決まってる。
こんな風になる前は、
全然気も使わないで話してたのに。
いきなり話せなくなるなんて、
どうなってるの?

やっと街に入って、後ろを振り返ると、
ゴーイングメリー号の姿も、
ビビやゾロやウソップの姿も見えない。

ほっと息を吐いた私に笑いながら、サンジ君が声をかける。
「ナミさん、もう大丈夫」
そう言って、差し出してくる、サンジ君の左手。
「?」
別にサンジ君から預かってるものなんて、ないわ。
なに?
戸惑ってる私の、
右手にサンジ君の手が触れる。
「手、つないで歩こう」
触れたサンジ君の手があったかくて、
でもまるで、
電気が走ったみたいに、ドキッてして、
慌てて手を離す。
「や、やだ」
思わず、咄嗟に断ったら、呆気に取られたような顔。
違うの、嫌じゃなくて。

そうじゃなくて、
だって。
緊張するじゃない。

手、つなぐなんて。
緊張するし、こんなにドキドキしてるの、
全部、伝わっちゃいそうじゃない。

「やだ?」
サンジ君が聞き返す。
私は手を後ろに組んで、サンジ君から体を背ける。
「そ」
素直になんて、いきなりなれないから。
あっつい頬を見られたくなくて、
声だけ素っ気ないように装って、
応える。


「でも、おれはつなぎたいから、つなごう」
え、って振り返るより前に、
サンジ君は右手をちょっと強めに、掴む。
抗議の声なんか聞かない、って言ってるみたいに、
その手を引っ張ってどんどん歩いてく。
「ちょっと、サンジ君!」
知らない街で、どこに何があるかも分からないのに、
ただひたすら引っ張られながら、歩く。

最初は手を離そうとしたけど、
そのたびに強くつなぎ返されて、
結局そのまま。
不思議なのは、
だんだんそれに慣れてきて。
悪くないかなあ、って思えたこと。

気がついたら街を抜けて、
反対側の海岸に着いてた。
やっと、サンジ君が振り返ったかと思ったら、
・・・サンジ君の顔も、ちょっとだけ、赤くて。
それ見たら、笑っちゃった。
サンジ君も空いた手で頭を掻きながら、笑ってて。


手をつないだまま、砂浜に座る。
「悪くないでしょ、ナミさん」
さっきは自分も照れてたくせに、
サンジ君は胸を張ってそう言った。
そんな彼が何だか可愛くて、
笑いながら頷いた。

サンジ君はそれから、
優しく微笑んで、手に小さく力を込めて。


不意打ち。
の、
キス。


文句も、口から出てこない。
ドキドキしすぎて。
心臓の音、すごく早くなってるのが、
きっとこの右手から伝わってる。
そして、
伝わってくる。

手はつないだまま、
サンジ君が私の体を寄せる。                      
鼓動の音、もっと、近くになる。

「大好き、ナミさん」
耳元で。
「めちゃくちゃ好き」
囁いて。
「おれ、幸せだな」
そんなの。
私だって。
私だって、大好きだし。
すっごい大好きだし。
幸せだし。


言えないけど。
恥ずかしいから言えないけど、
言えないから。



手をつなごう。


この手から、
私の気持ち、いっぱい伝わるように。
そう願ってつなぐから。


手をつないでいよう。