ひら、ひら。

少し強い風が吹いて、
何枚かのさくらの花びらが舞った。


C・Kiss







辿り着いた春島は、まさにその名の通り、春真っ盛りだった。
チョッパーの目の輝きといったらない。
船を浜辺につけるとすぐ眼前に広がる桜の木々に、
ルフィやウソップと一緒に大はしゃぎで飛び出していった。

「チョッパー、あんなに嬉しそうにしてる」
見ているナミさんも嬉しそうだ。
そりゃあ、あそこまではしゃいでる姿を見りゃ、
このおれだって思わず笑っちまう。
少しはこの島でのんびりできるということで、
折角だから少し酒でも出して花見をすることにした。
外で食うとなったらまた少し料理にも気合が入る。
桜の木の下で映えるような色合いにしよう。



「サンジ、これうめえ!なんだ!?」
上機嫌で食べ続けながらルフィが聞く。
それを横からウソップがなんとか必死に食べようとしている。
ウソップにも取り分けてやりながら、
「それはフリッタータだ」
「そうか!わかんねぇけどうめえ!」
「あら、そんなに美味しいなら私も食べたいわ」
「勿論、喜んで〜〜!!!」
ウソップに渡す予定だった皿を即ロビンちゃんに手渡す。
「おれの分じゃね〜のかよ!」
ウソップの声は聞き流し、
ロビンちゃんの「美味しい」という声に聞き惚れた。

それから料理を綺麗に取り分け、並べ、
酒を片手に、はしゃぐチョッパーを見ていたナミさんの隣に座った。
「ハイ、ナミさんの分」 
「ありがと、サンジ君」
チョッパーは一人でも楽しそうに桜の木々を見て、
花びらの一つ一つに感動しているようだった。
やがて食べ終えたルフィやウソップもチョッパーの元に行って、
3人で走り回ったりしている。
そんな光景を見ながら笑っているナミさんの横顔を、
ついつい見つめてしまう。


満開の桜の花に囲まれて、
大きく楽しそうに笑っている、
ナミさん。
この表情が、おれはすごく好きだな、と思う。
小さく上品に微笑む大人の女性も勿論美しい。

強くて真っ直ぐな瞳や、
船を導いておれの心を捉えて離さない言葉が出てくる唇も、
この明るい笑顔のトキが最高に魅力的なんだ。



いつの間にか時は過ぎて、
遊びつかれた3人は寝転がって、
ロビンちゃんとクソマリモはどこかへ消えた。
暗い中、月明かりだけに照らされた桜も中々悪くない。
おれに風流、なんてココロはよくわからねェけど、
綺麗だ、と思った。
桜も、それを見上げるナミさんも。

「ちょっと豪華なお花見だったけど、楽しかったわね」
ナミさんが笑ったときに、
ひゅうっと風が吹いた。
温かい風と一緒に、花が舞う。

さくらが、花びらが、ひらりとナミさんの上に。


「あ、さくら、食べちゃう」
そう言ってナミさんが口をあけると、
風でナミさんの口に迷い込んだ花びらが、
舌の上に一枚落ちていた。
薄い桃色のさくらの花びらがやけに目に留まって、
途端に触れたい衝動に駆られる。

「んっ」
開いてた口に深くキスをした。
ナミさんの中の花びらを、
舌ですくいとる。
ほんのり、甘い味がした気がした。


おれより先にさくらに奪われた口を、
なんとか取り返したかったンだ。

「エロサンジっ!!!」
いつものパンチがクリティカルヒット。
あぁ、こんなナミさんも大好きだ。
明るくて可愛くて、
強くて綺麗で、
キスしたらちょっとだけ大人しくなって、
頬をこの花びらの色で染めることも全部。
なんて愛しいんだろう。



おれの心もまさに、
ナミさんへの愛で満開なワケです。