誕生日、おめでとう!! 



H.B Robin!!





彼女が仲間になってから、初めてのこの日。
残念ながら島に立ち寄ることは出来なかったけれど、
それをきちんと想定して食料などの調達はばっちりだった。
勿論、フェミニストなコックが、
船に住んでいる大きなネズミから食料を守ることは何度かあったんだけれど。
そのコック、サンジは朝早くから料理の仕込をしていた。

「ここはこうして・・・よし、いい感じだ」
最初から誰より友好的だった彼は、
人一倍今日に力を入れていた。
朝食から夕食まで、
彼女のためにと少し大人っぽい料理と飾り付けを考えてある。
朝食の準備を進めていると、
普段はサンジ以外が開くことのない早朝のキッチンの扉がノックされた。
「ア?誰だ?」
「サンジ、おれだ」
「チョッパーか、どうしたこんな早くから」
扉を開けてやると、チョッパーは少し気を落としがちに入ってきた。
サンジは一旦手を止めて、チョッパーに聞いてみる。
「どうした、元気ねェじゃね—か」
「うん。・・・おれ、今日ロビンの誕生日だから、
前の島に寄った時植木鉢を買って育ててたんだ。
でも、最近元気がなくて、今朝見ても花が咲いてなかったんだ」
言うチョッパーの手には、
小さな植木鉢とそこに細い茎につながったつぼみの姿があった。

そういえばチョッパーが熱心にジョーロに水を入れている様を、
何度か見たことがあるなとサンジは思いつつ、
戸棚の引出しから小さな袋を取り出した。
「聞くかどうかわかんねェけど、コレ使えよ」
「コレは??」
「魔法の粉だ。おめェが咲けって思ってたら咲くかもしれねェぜ。
けどまァ、ロビンちゃんは気持ちだけでも十分喜ぶと思うけどな」
「ありがとうサンジ!!」
チョッパーは途端に元気になって、キッチンを後にした。
サンジはそんな後姿を微笑ましく思いながら、
料理を再開させた。

「ウソップ、何作ってるの??」
「おお、驚いたナミか」
「大丈夫、ロビンは今サンジ君が気引いてるから」
みかん畑の陰で、こつこつ何かを作っているウソップに、
みかんの世話をしに来たナミが話し掛けた。
手元を見ると、みかん色の小さな箱のようなものが見えた。
と、思ったけれどすぐにそれはみかんの色が映っていただけで、
本当は銀色に光っているよう。
「コレはな、ウソップ様特製小物入れだ!」
「アンタってほんとに器用ねえ、うらやましいわ」
「だろ、だろ??うまく出来たと思ってるんだよなあ。
ところでナミ、お前は何か用意してるのか?」
聞かれたナミはやや渋い顔をする。
「本当は、あんまり・・・でも、ロビンには何かとお世話になってるから。
私の持ってる中でもお気に入りのネックレスあげようかと思って」
「はは、ナミにとっては苦渋の選択だな」
「でしょ」
そう言って苦笑しながらも、
2人とも彼女の誕生日を祝うキモチは一緒だった。

「それじゃあ・・・」
ルフィは樽を大きく掲げ、ロビンに笑いかけながら叫ぶ。
「ロビン!!!誕生日おめでとう!!」
「おめでとうロビンちゃ〜ん!」
「おめでと、ロビン」
「おめでと〜」
乾杯をしながら、祝いの言葉が次々と並べられ、
ロビンはふふ、と笑いながら、
「ありがとう、こんな風に祝ってもらえるなんて嬉しいわ」
心からの感謝の言葉で返した。
ルフィがそそくさとロビンの隣に行き、
おもむろに丸焼きの肉を差し出した。
「?」
「ロビン、おれからのプレゼントだ。食ってくれ」
「まあ、大きなプレゼントね」
「おいこらクソゴム!!そりゃおれが作った料理だろうが!!
ナンでてめぇからのプレゼントになってんだよ!!」
「おれの皿に取ったんだからおれのもんだ、
だからおれからのプレゼントだ!」
「バカなこと言ってんじゃねえ!!オロスぞコラ」
「はいはい、せっかくの誕生日なんだからケンカしないの」
「はい、ナミさんっ」
ナミが仲裁に入ればサンジは抵抗できるわけもない。
結局肉はルフィからということになってしまう。

「ありがとう航海士さん、とても綺麗なネックレス」
「そうでしょう?気に入ってたんだから、大事にしてよね」
「ええ」
「じゃあ、このウソップ様特製小物入れに入れてくれ!」
「あら、至れり尽せりね」

2人からプレゼントをもらい、嬉しそうにしているロビンに、
近づこうとして躊躇しているチョッパーにゾロが話し掛けた。
「何やってんだ、チョッパー」
「ゾロ。おれ、あの2人みたいに豪華なものじゃないから・・・」
「そんなこと気にするようなタマじゃねーだろ。行ってこいよ」
「う、うん」

とことこ近づいてくるチョッパーに、ロビンは優しく話し掛ける。
「どうしたの?」
「うん、ロビン、おれ、ロビンのために花を育ててたんだ」
「お花?」
「でも、小さな花しか咲かなくて・・・」
「みせてくれるかしら」
チョッパーは両手で桃色の、小さな一輪の花を差し出した。
それは確かに小さかったけれど、
しっかりと上を向きリンとした、綺麗な花だった。
ロビンはそっとその花が咲いた植木鉢を手に取る。
「綺麗なお花ね。とても嬉しいわ、大切にする」
「ほ、ほんとか!?」
「ええ、ありがとう」
「う、う、別に嬉しくねーぞ!このヤローが!」
「ふふっ」

ウソップも照れているチョッパーの頭をぽんぽん叩きながら
チョッパーを誉める。
「お前中々気のきいたことするじゃねえか」
「グランドラインの中で花育てるの大変だったでしょ?」
「うん、ナミ、でもサンジが魔法の粉くれたからさっき咲いたんだ」
良かったわね〜と言いながら、ナミはサンジの元へ歩く。
「サンジ君、チョッパー喜んでたわよ」
「ああ、花咲いたみてェで、何よりだな」
「なに??魔法の粉って」
「イヤ、ただの片栗粉だったんだけどね」
「やっぱり。花咲かなかったらどうするつもりだったのよ」
「見たらすぐ咲くだろうなって思ったからさ、
ホラ、ナミさんのみかんで勉強してるから」
「サンジ君は抜け目ないわねえ」
「好きでしょ、そういうとこ」
「ば〜か」

誕生日を祝ってもらえるなんて、一体今までの人生であっただろうか。
あまりにも昔のことで忘れてしまった。
けれど手の中にあるプレゼントや、今日の料理のこと、
決して忘れないと思う。
一回りも年が離れていても、
仲間になったばかりでも。
こんなに暖かく歓迎してくれるなんて、
嬉しくていつも読んでいた本を読む気にもならず、
ロビンはプレゼントを眺めていた。
自分から買って出た見張り役も、こうして気分を落ち着かせたかったから。
月明かりで光る『ウソップ様特製小物入れ』を開けると、
小さな音楽が流れる。さっきは騒がしくて聞こえなかったけど・・・
何の音楽かは分からない。
彼の故郷の音楽かしら。
でもとても、心の安らぐ曲。

「アイツ、どこまでも凝ってやがるな」
突然聞こえてきた声は、今日一番口数の少なかった彼。
「あら、見張りの交代をお願いしてたかしら」
「フン。少し眠れなくて外に出たらお前がいただけさ」
そう言いながら、ゾロはロビンのとなりに座る。
小物入れからの小さな音楽と、月の小さな灯りだけが二人を包む。
静かな時間。あと少しで、明日になる時間。
「これ」
「え?」
「毎日同じ本ばかり読んでいるだろう。
いらないかとも思ったけどよ」
ゾロがぶっきらぼうに差し出したのは、古そうな厚い本。
ラッピングも何もされていないところが、
彼らしかった。
受け取り、最初のページに目を通す。
思わず笑ってしまい、ゾロに睨まれる。
「な、何がおかしい」
「恋愛小説ね」
「!!!・・・・・・お、おれは字が読めねェから、
適当に選んだんだ!別に、そんな」
「分かってるわ。でも、面白そう。読ませてもらう」
厚いし、立派な表紙から、難しい本だと踏んだゾロは、
あまりに自分が想像していたものとは違う内容
(しかも一番苦手な・・・)に動揺を隠せない。けれど。
「しばらくは、退屈しなくてすむわ」
「畜生・・・・・・」
「生きてて良かったって、こういうときに思うのね」
このときロビンがみせた微笑で、
更にゾロは動揺してしまうのだった。
そのとき小さな星が流れて、時間は新たな『今日』を紡ぐ。

ありがとう。