いつもより早起きして。
ちょこっとだけチークを多めに。
スカートを何枚も並べて、
ううん、どれにしよう。
3月14日って、普通に考えたら、春かな。
じゃあ、
桜色。



ホワイト・デー



真っ白のシャツに、
1ヶ月前から愛用してくれてるスカイブルーのネクタイ。
細身の、黒いパンツ。
カジュアルな格好も似合うけれど、
やっぱり少しフォーマルな服が、
本当に良く合うと思う。
腰にはチェーンが太陽に反射してキラキラしてて、
少し、眩しい。

「お待ちしてました、お姫様」
船から下りる梯子の下で両手を広げて、
笑顔で私を迎えるサンジ君。
私は途中まで梯子を使うけど、
そこからはわざと、彼に向かって飛び降りる。
両腕はしっかり私を受け止めて、
私の体は空を一回転してから、
地に足をつける。

今日は、ホワイト・デー。
島に上手く立ち寄れて、
彼のエスコートでデート。
ねえ。
傍目から見てもお似合いだと思わない?
私たち。

何でも、ナミさんのしたいことをしよう。
好きなもの、何でも買おうって。
そんなこと言われたら、
私、遠慮しないわよ。
・・・なんて。
こうして青空の下、
手を繋いで歩けるだけでも、
十分嬉しいわ。
常に危険と隣り合わせの航海をしているから、
こんな当たり前の幸せを、
本当に嬉しいと思うのよ。

街角で、小さなお店を見つけて。
店先にいたのは一人のおばあちゃん。
手元にあるのは、みかんのイヤリング。
一つ、200ベリー。
だけど、手作りなのよって言われて。
つまり、世界で限定これだけってことでしょ。
私とサンジ君は顔を合わせて頷いて、
200ベリーを手渡す。

早速って言って、サンジ君の指が右耳に触れる。
イヤリングの止め具がきゅ、きゅって回されて、
耳たぶを締め付ける。
「ナミさん、痛くない?」
「うん、平気」
左耳にも、器用に取り付けて。
マニキュア塗ったりとか、
サンジ君はとにかく手先が器用で。
—料理人は、手先が器用でなくちゃ。
だから、おれ"上手い"でしょって、
調子に乗るから。
今日は、誉めてあげない。

小さなみかんが風に揺られて、
私たちはまた歩き出す。
一つ一つ立ち寄る島を、
なるべく覚えていたい。
海は広いから。
数え切れないほどの島があるから。
訪れた島のことは、きちんと記憶に留めたい。
例え他の人が知るはずのない島であったとしても。
そのために、こうしてのんびりできるときは、
街の中をいっぱい見て周って、
それは小さなみかんのイヤリングでもイイから、
何か覚えておけるものを見つけて。
もし私が忘れてしまっても、
そこには、きっとその記憶があるから。

ねえ。
こうして、
船では肌を重ねることなんて出来ないから。
真昼間から買い物後にチェック・インなんて、
どうかしてるんじゃない、って言われても。
このヒトにかかっちゃえば、
どんな時だって最高の雰囲気に変わるのよ。
いつもとは違う、
"オトコ"のサンジ君。
ちょっと、惚れ直しちゃうのよ、いつも。

まだ、時間はある。
私たちは同じベッドの中で、
特に何か話すでもなく、
こうして触れ合っていることがすき。

「ずっと、こうしていたいなァ、ナミさんと」
サンジ君が、よく言う言葉。
それは最初、不健全な意味で捉えちゃったけど、
今は、ちゃんと分かるよ。

夢を追いかけて、冒険をして、
時には危険に立ち向かって、
傷つくこともあるけれど。
たまの休息に、
まるで自分たちが海賊だってこと忘れたみたいに、
デートして、愛し合って。

つまり、そーゆーコト。

ねえ。
私はサンジ君以外にそんなこと言ってくれる人、知らないわ。
そして私も、同じ風に思える相手、
きっともう、見つからないって、思っちゃうわ。
だから、ずっと傍にいて。
ずっと、私と、一緒にいて。