HAPPY BIRTHDAY





もう夜になると、息が白く染まる。
陽が落ちるのも早くて、
暦の上と同じような季節を、
航海しているんだな、と思う。

寒いのは苦手じゃない。
初冬生まれだということが、関係してるわけでもなさそうだが。

何をするでもなく、
暗い海を見つめる。
見張りのため、寝るわけにはいかない。
かと言って何をするでも、ない。

冷たい風が頬を掠めて、髪が揺れる。
目を閉じて、また開くと、
隣に人の気配。
見なくても、わかる。

「寒く、ない?」
お前も、さほど暖かそうな格好はしていない。
薄手のシャツに、ストレートのパンツ。
シンプルな服装が、一番似合うと思う。
「ああ、別に」
「そう」
なびく黒髪に右手を通して、微笑むお前に、目を奪われる。


急に、何故だか、
お前を抱きしめたくなって。
腕を伸ばした。


「・・・剣士さ」
右手で頭を押さえて、唇を重ねる。
荒々しい行為に戸惑いつつも、
お前は両腕を首に回してくる。
冷たい外気の中、唇だけが熱を帯びていて、
それが全身に伝わってくるような感覚。
痺れそうになる。

唇を一端離して、表情を伺う。
真っ直ぐにおれを見る、瞳。

「年を重ねると、上手になるのね」 
皮肉そうに言われても、気にならない。
お前は少し照れると、そんな風におれを茶化す。
そんなことも、分かってきた。

もう一度、今度は長いキス。
何度交わしても、
どれだけの時間一緒にいても、
満ち足りることはない。
いくらでも、お前の傍にいたいし、
こんな風に重なっていたいと思う。

特に今日は素直にそう思ったんだ。

誕生日だからとか、そんなことはどうでもいい。


こうしてお前の傍にいて、
お前を抱きしめたいと感じて。

お前を愛しいと思うだけでも。


おれがこの日に生まれてきた意味があると言えるだろ。