心も体も、少しだけ熱い。 


微熱






「37.5度・・・」
微熱だな。
「熱はそんなに高くないけど、体だるいなら今日は休んでた方がいいぞ」
チョッパーはそう言うと、見るからに不味そうな、
緑色の液体が入ったコップを差し出してきた。
だるい腕を伸ばして口に含むが、
思った以上にクソ不味い。
「不味くてもちゃんと飲まないとだめだからな」
「あァ・・・」

いつものように朝起きたら、
体がだるくて動かない。
ここのところ天気の移り変わりが激しく、
一昨日から昨日の晩まで、
寝ずにみかんの世話をしたのが原因だったらしい。
ナミさんも航路の確認で忙しかったし、
おれがやらなきゃ誰がやるって勢いだったんだが・・・
畜生、参った。

「大丈夫よサンジさん。
ご飯はウソップさんが作ってくれてるし、
私も手伝っているから」
「ビビちゃんの料理が食べられるなら、
具合悪くなってよかったな〜」
「ははは・・・」
相変わらず乾いた笑いでおれの言葉を流すビビちゃん。
チョッパーは冷たいタオルをおれの額に乗せ、
「ちょっと寝たほうがいいぞ」
「そうね、それじゃあ私たちは・・・」
ビビちゃんとともに、部屋を出ようとする。
おれは少し考えてから、言葉を投げかけた。
「あのサ、ナミさんは?」
「ナミさんならここ数日海が荒れてて、
海図もろくにかけなかったからって
今部屋で真剣に海図を描いてましたよ」
「呼んでくるか??」
「いや、イイ。わりぃな」

それじゃあ…と去っていった二人の背を見送り、
ドアの閉まる音を聞くのと同時に、
額のタオルを右手で押し付ける。
冷たい感覚が、気持ちいい。
ふがいねェけど、今日は休ませてもらおう。

とは言っても。
先程飲んだ強烈な薬のせいか、
目が冴えちまって眠れない。
目を閉じながら、ふと、考えた。
(ナミさん、心配してくれてるかな)
自分たちの仕事はきちんと果たそう。
そうしてから愛を語ろうと、
約束をした。
大切な海図や、日誌を書く仕事を投げ出してまで、
おれのところに来て欲しいわけじゃない。
でも・・・

心配してンのかな。
それとも忙しくて、それどころじゃねェのかな。

毎朝、食卓でナミさんに会って、
おれの作った飯を食べてるナミさんを見る日課が、
ちょっとたった一日崩れただけで、
おれはこんなにナミさんのことが気になっちまってる。
微熱のせいってワケでも、なさそうだ。

ナミさん、朝食食ったかな。
ウソップが作ったメシでも、口に合ったかな。
ナミさんは卵、ちょっと硬めじゃねえと、
だめだからさ。
みかん、クソゴムに狙われてねぇかな。
そういや昨日弱ってた枝、
どうなったかな・・・

・・・・・・・・・

冷たい、感触。
いつの間にか熱を吸収してタオルはぬるくなっていたらしい。
冷たく濡れたタオルがまた、額に置かれて、
おれは目を覚ました。
「ごめん、起こしちゃった」
「・・・ナミさん」
部屋が薄暗い。
どのくらい眠っていたんだろう?
眠くなかったはずなのに、
やはり体は疲れていたんだろうか。
「もう、夜の8時。ぐっすり眠ってたね」
小さな声で、ナミさんが囁く。
心なしか、いつもより優しい声。
冷たい額への感覚より、
心地良い。

「ナミさん、いつからここに?」
「うんと、海図描き終えてからだから、
3時くらいかな」
「そんなに、長く?」
「夕飯は食べたけどね。だって、心配でしょ」

・・・・・・ナミさん、心配、してくれてたんだ。
良かった。
なんかサ、おれ、
おればっかり好きなのかなって、
たまに思っちゃうんだよな。
だから少し、安心した。

「馬鹿は風邪ひかないって言うのにさ」
ナミさんはタオルでおれの髪の毛を優しく拭いていく。
眠っていて体が少し楽になって、
思わずその腕を掴んでしまう。
「サンジ君?」
薄暗い部屋で、ナミさんと2人きり。
誰も、邪魔はしてこない状況。
微熱のせいってことにしたら、
許してくれないかな。
「ナミさん、キスしたい」
「バカ、風邪移るでしょ」
速攻拒否。
「じゃあ、抱きしめるだけ」
「・・・・・・」
「だめ?」
ナミさんがだめって言わないときは、
OKの時。
ナミさんはテレ屋さんだから、
OKとは言ってくれないんだよナ。
そこも、可愛いんだけど。

腕に力を入れて、体を起こす。
もうだいぶ調子がいい。
さすが、良薬口に苦しだ。
「大丈夫?」
「うん、ナミさんがいるから」
「何言ってるの」
「汗臭かったら、ゴメン」
タオルを近くのテーブルに置き、
ナミさんの腕を背中に回させる。
細い体を壊さないように、
そっと抱きしめる。

やっぱり、一番安らぐ。
ナミさんとの時間。
ナミさんの感触。
ナミさん、大好き。

そっと首筋に口付けると、
ナミさんの体がぴくっと反応する。
「ちょっと、サンジ君っ」
抗議の声を聞かなかったフリをして、
口付けを重ねる。くるっと体を回して、
ナミさんをベッドに横たえる。
「だめ、サンジ君」
「ナンで?」
「何でって!具合、悪いんでしょ」
「ナミさんがいてくれたからもうヘーキ」 
「そんなわけないじゃない。だめだってば」
そう言っても、抵抗する力はそんなに強くない。
病人だから甘くしてくれてる?
それとも。
口にキスしたら、移っちまうかな。
ナミさんが具合悪くなるのは、ヤだな。
口は、完全に治るまで、我慢するか。
首元から、シャツのボタンをはずして、
キスを下にずらしていく。
白い肌を紅く染めてしまいたい衝動にかられたけど、
怒られるからやめておいた。
今日は、優しいナミさんのままがいい。
「サンジ、くんっ」
「ナミさんの肌、ちょっと冷たくて気持ちイイ」
「もう・・・・・・」

ナミさん、ずっと傍にいていいかな。
朝食毎朝作って、ナミさんの笑顔見たい。
そうじゃなきゃ、物足りなくなっちまったからさ。