ああ、そうだったんだ。 


Because






******

ナミさんがここンとこ、機嫌が悪い。
ナミさんは喜怒哀楽が分かり易いから、
ちょっとでも機嫌が悪いとピンと来る。
どうしたんだろう、またおれが何かしたか?
イヤ、してない何も。
街によってもナミさんしか見てないし、
ビビちゃんに優しくはしているものの、
ナミさんに毎日ナミさんだけって囁いてるし。
ナミさん嬉しそうに照れたりするし。
ナンで、機嫌悪いんだろ。

「チョッパー」
「何だ?サンジ」
ジュースを飲みに来たチョッパーを捕まえる。
卑怯かもしれないが、
おれはナミさんの機嫌が悪かったりケンカしたりすると、
ついついチョッパーの力を借りてしまうのだ。
やっぱ容姿的に女の子に好かれるし、
ナミさんもチョッパーには甘い。
仲裁に入ってもらうのはよくあることで、
その後特別にうまいデザートを作ってやるのもよくあること。

「ナミさんさ、最近機嫌悪くねェ?」
「またケンカしたのか?」
「イヤ心当たりはねェんだけどよ・・・
悪ィけど、またナミさんの様子伺ってきてくれねェかな」
くるみパイを作る約束で、
チョッパーは引き受けてキッチンを後にした。

******

聞こえてくる足音。
ビビが戻ってきたのかな、と思ったけど、
すぐにそれは違うと分かった。
足音だけで誰だかわかる相手、
チョッパー。
ノックの音がする。私はドアを開けてチョッパーを招き入れた。
「どうしたの、チョッパー」
なんとなく、理由はわかってる。
「ナミ、サンジが最近ナミが調子悪いみたいだって、
心配してたぞ」

いつものこと。
何か私に困ったことがあったら、
チョッパーに聞かせるサンジ君の手法。
最初のときはムカついたけど、
今はそうでもない。
チョッパーは話しやすいし、
ちょっとバカだけど、親身に話を聞いてくれる。
だからチョッパーのことは大好きなんだけど。

でも。
こんな悩みは、とてもチョッパーには言えない。
「そんなことないわよ、チョッパー。私はいつもどおりよ」
「そうなのか???でも・・・」
「じゃあ、サンジ君に言っといて。少しは自分で考えろって。
でも別に何かに怒ってるとかじゃないから」
怒ってはいない。
別にいいのよ。いいけど。いいけどさ。
「分かった!」
チョッパーは言われたことを忘れないうちに、と、
そそくさと走って部屋を出て行った。
ビビはまだ帰ってこない。
やっぱりビビにあんなこと言うんじゃなかった。
ビビがどう思ったとかは置いといて、
私自身が意識してしまってる。
口に出したことで更に自分の中で高まってる。
ああ、もう。

******

思っていたよりもだいぶ早いチョッパーの帰還に、
驚きつつおれはタルトの生地を作りながら問い掛けた。
「どうだった、チョッパー」
「うん・・・自分で考えろって」
「はァ!?それじゃお前、聞きに行った意味がねえじゃね—か」
「うん、でも、怒ってるわけじゃないって言ってた」
よほどタルトが食べたいのか、必死に弁解する。
怒ってない??
じゃあナンで??
しかしまたチョッパーを使っても意味はないだろう。
おれは取りあえずタルトを作りながら、
出来たら呼ぶといってチョッパーを追い出した。

ナニが理由なんだろう。
怒ってないのに機嫌が悪い時ってどんな時だろう・・・
生地をオーブンに入れて、焼きあがるまで外でタバコでも吸うか。
キッチンの扉を開け、風下に向かってタバコに火をつけつつ歩くと、
途中でビビちゃんとマリモの声が聞こえてきた。
そーいや仲がいいな、あの2人は・・・

「だ・か・ら!!私の話じゃないんですよ、Mr.ブシドー」
「じゃあ誰の話なんだよ」
「そ、それは・・・言わないで下さいね」
「誰に言うと思う、オレが」
「そうですけど。・・・・・・ナミさんですよ」
ナミさん!?ビビちゃん、ナミさんの話を??
ちっ、レディの話を盗み聞きするなんざ格好悪ィが、
今回だけだ。陰に隠れて、耳に神経を集中させる。
ばれないようにタバコもすぐに火を消した。

「ナミィ???アイツが、か?」
ナミさんをアイツ呼ばわりとは・・・
マリモヘッド、てめえ今日の晩飯抜きだぜ。
「だから、サンジさんには聞けなかったんです」
おれ?
「だろうな。しかし意外だな。あのエロコックのことだから、
もうとっくに・・・」
「私も意外でした」
「だろ?それでナミは悩んでるのか」
「そうみたいなんです。サンジさん意外と奥手なんでしょうか」
「ねえと思うけどなそりゃ・・・」
ビビちゃんとマリモの苦笑いにも似た笑い声が聞こえてきた。

・・・・・・
・・・・・・
ま、参った。
全く考えなかった。
ナニかしたから機嫌が悪かったわけじゃなく、
しなかったから機嫌が悪かったとは。

したくないわけじゃない、勿論。
ナミさんを抱きしめて、
キスをするたびにそんな気持ちならいくらだって起きる。
ケド・・・・・・
毎日キスを交わしても、
驚くくらい過敏に反応するカノジョ。
おれが求めたら、壊れちまいそうで。
断られそうな気がしてた。
ナミさんに拒否されたらおれ生きていけねーし。
そんなこんなで、
タイミングを計れずにいたワケだけど・・・
まさかナミさんがそんな風に思ってくれてたなんて。
あぁ、神様ありがとう!!!

おれは物音を立てないようにその場を離れ、
キッチンに戻ってタルトを完成させた。
それを綺麗にカットして、ナミさんの大好きな紅茶と一緒に、
部屋まで運ぶ。
軽くノックをして、ドアを開ける。
ナミさんの、ちょっと驚いた顔。

「おやつをお持ちしました」
「・・・ありがと」
素っ気ない。
そりゃあそうか。
ビビちゃんに相談した後に、
おれが現れるのは恒例のおやつの時間だとしても、
意識するよなァ。
ああ、ナミさん可愛いな。

もうビビちゃん来ちゃうよな。
チョッパーだってそろそろ時間だってわかってるよな。
やべえな。
おれ、今、ナミさんを愛したくて仕方ねえ。

「ちょ、サンジ君!」
ナミさんの制止も聞かず、
おれはナミさんをいつもより強めに抱きしめた。
ナミさんの体温。感触。匂い。声。
全てがおれの神経を刺激する。
「ナミさん、キスしていい」
「だ、だめ!」
「ナンで」
「ビビが戻ってきたらどうするのよっ」
「じゃあ鍵閉めよ」
「バカ言ってんじゃないのッ!!離してよっ」
「ヤダ」
「ヤダじゃなッ・・・・・・」
口を塞いで、言葉を飲み込む。
抵抗する力も強いけど、
おれの力には敵わない。
深いキス。溶けちまいそうだ。

ここで我を忘れてみるのもテだけど、
ナミさんに嫌われちゃ意味がない。
ビビちゃんに見つかったら永遠に嫌われそうだし。
おれはナミさんから唇をゆっくり離す。
・・・と、共に。
「バカっ!!!!!」
おれの額に一直線なナミさんパンチ。
ああ、さっきまでラブラブだったのに・・・
「ナニ考えてんのよこのエロコック!」
「いやァ・・・だってナミさんが可愛いからっ」

ナミさんのそんな気持ち知っちまったら、
おれもう止まんねーよ。
ホントは、ナミさん愛しちゃったら病みつきになりそーで、
それも怖かったりするんだけど。
次に島に行けるのはいつかなァナミさんっ!

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おかしい・・・絶対おかしい!!
あんな風に強引にすることなんて滅多にないのに。
ビビ、まさか??
ううん、ビビが言ったりしないってことは分かってるわ。
でもあの態度。
ま、まさか私たちの会話聞こえてたんじゃ・・・・・・
・・・・・・・・・
ああ、もう!!!
次に島に着くの、なるべく遅らせても、いいかしら・・・