風を薙ぐような、真っ直ぐの黒髪だとか。           
すらりと伸びる、白い腕や足だとか。                  
耳から全身に響き渡るような声だとか。                      
一度は夢を諦めて、                    
また光の射した憂いのある瞳だとか。   






「おれのこと、どう思ってんだ」
意を決して、絞り出すような声で聞いた。
またお前はいつものように小さく笑って、
「貴方が思ってるのと、同じ」
そう、答えた。

そうやって、お前はいつも、
簡単におれに腕を回して。
あいさつのように唇を重ねて。
回を追うごとに、
おれの心がどんどんお前に堕ちていくことなんざ、
気にもとめず。

はぐらかすのが上手で。
不愉快に思う一歩手前の、
美麗な微笑を見せるのが上手で。
おれの心をかき乱すのが上手で。

なァ、何を考えてる。
おれを瞳に映さないとき、
お前は何を考えてる。
おれのことなんか、考えていないんだろ。
腕の中にいるときは、
まるでおれのものなんじゃないかって、
錯覚するくらい、・・・近くに感じるのに。

「どうして、そんなこと聞くの?」
おれの考えていることなど、分かるはずだ。
「さあな」
「ふふっ。おかしな人」
汗ばんだ背筋に、指が触れる。
先程までお前もそうだったはずなのに、
もう指は乾いていて、
おれの神経を優しく撫でる。
いつもそう。
おれがお前に背を向けると、
指でなぞったり、腕を絡めたり。
そうすればおれが振り向くと、分かっていて。
振り向けば、上目がちのお前がいて。
その目に見据えられて、
一時停止になるおれがいて。
まるでお前だけが動いているかのように、滑らかな口付けを。

船を島に泊める、その晩だけ。
僅かな時間船を離れ、
僅かな時間を二人で過ごして、
何事もなかったかのように船に戻る。
朝叩き起こされて朝食に行くと、
お前はいつものように軽く挨拶をするだけ。
手早く食事を済ませてコックの野郎に礼を言い、
甲板へ本を読みに出る。
気まぐれで、
おれが眠っていればいつも隣に来るわけではなくて。
夜も朝も昼も。
気が向いたときにやってきて。
反応したおれを楽しそうに見て、
笑う。

たまに。
ふと、目が覚めて。
けれどお前は隣にいなくて。
そんなときに心の片隅に、焦燥感を覚える。
立ち上がって船内を周ると、
本を閉じて、ただ海を眺めていたり。
そんなときのお前は、
ひどく遠く感じる。
どうすればいい。
おれは気の利いた言葉も口に出来ない。
お前みたいに腕を回せるほど、有能じゃない。
何をしたらいいのか、分からないんだ。

居た堪れなくてその場を離れて木陰へ腰を下ろす。
なあ・・・
何を、望んでる。
おれに。
ただ触れるだけでいいとか、
そんな簡単な女じゃないだろ。
おれはこんな男だから、
分からねェんだ。