朝起きたら君のためにご飯を作って(4人前余分に作る)
片づけが済んだら紅茶を入れて
昼食を作って、みかんの世話を手伝って。
夕食を作ってオヤスミナサイ
そんな毎日だけでも、
おれは十分だと思ってたんだけど。


今日は違う日






昼食の洗い物を手早く片づけて、
おれはみかんの世話をするために足を早める。
ナミさんがここに戻ってきてから、
ずっと大切にしているみかんの木。
ナミさんが大切なものはおれにとっても
滅茶苦茶大切なモノ。
勿論ナミさんと一緒にお世話をさせてもらっている。
ナミさんがいるときは収穫を手伝って、
ナミさんが忙しいときはみかんを死守。
飢えた獣みてーな輩が、この船にはすんでるからな。

最近のちょうどいい気候のおかげで、
ナミさん(と俺v)のみかんの木は順調に育っている。
いつもより多く熟したみかんをかごへ運んでいく。
「サンジ君、そっちのほうもお願いね」
「は〜いナミさんv」
おれは傷をつけないようにひとつひとつ慎重にもいでいく。
木の方向が太陽が照っている方向で、
少しだけ眩しいけど、
ナミさんのためならこのくらいはヨユウ。

ナミさんのために何かをするのは、楽しい。
今までもレディに尽くすのはスキだったけれど、
こんなに純粋に、
傍にいて役に立ちたい、喜んで欲しい、
そんな風に思い続けることは初めてだった。

端麗な容姿のせいもあるけど、
それだけじゃない。
喜怒哀楽を目いっぱい表現して、
明るく元気なカノジョ。
悲しい過去にも負けず村を救おうとした強さ。
健気さ、ひたむきさ、あァ・・・
スキなところあげると、キリがねえ。

振り向いてくれなくても、
ナミさんの近くにいて笑顔が見れれば、
もうそれだけで幸せなんス。

あれ。
今ナミさん、おれのこと見てた?
いや、みかんを、かな。

運んでたみかんを、かごに入れようとして、
ふとナミさんを見たら・・・

「ナミさん!!」
危ない!!!
いきなり、バランスを失ったように倒れこんだナミさんを、
大切なみかんを投げ出す羽目になったけど何とか抱きとめる。
「・・・!」
「ナミさん、大丈夫??」
ナミさんは咄嗟におれのシャツを掴んだまま、
驚いたカオでおれの事を見てる。
危なかった、無事でよかった。
ケド・・・この体勢はややヤバイ。
おいしいけどな。

『もう、離しなさいよっ!!』
いつもなら飛んでくる声とパンチ。
今日もそれを期待(?)していたんだけど。

ナミさんは掴んだ手を離さずに、おれを見たまま。
「・・・・・・ナミさん?」
呼びかけてみても、動かない。
そんな目で見られたら、おれどうなるか分かってンの?

ナンで、ナミさん、
おれ、ちょっと誤解しちゃうカモよ。
離さないなら、おれも離さねえよ。

こんなことをしたら怒られる。
もうマトモに口を利いてもらえなくなる。
そう思ってて、決して、
行動に移すつもりなんかなかったのに。
ナミさんが可愛くて、可愛くて、可愛くて。
恐る恐る、支えていた腕をさらに背中に回して、
ナミさんを抱きしめた。
柔かい、ナミさんのカラダ。
暖かい、ナミさん。
うっわ・・・やっべえ。

「サン、ジく・・・」
抗議するほど強い声ではなく、
小さく囁くように言う。
おれはたまらなく愛しくなって、
唇を耳元に当てた。
「ナミさん、スキ。すげぇ、スキ」
おれの本心。
いつも言ってるはずなのに、
何故だかすっげえ緊張した。
スキって言葉に、緊張したのなんか初めてだ。
「サンジ君」
震えた声。
怯えた声じゃない。
ナミさん、もしかして・・・

けど次の瞬間おれの耳に入ってきたのは、
一番聞きたくない声だった。
「サンジどこだぁ———!!!」
分かってる。
今がてめえのおやつの時間に差し掛かったのはよ。
けどよ、この状況を邪魔されるのはゴメンだぜ。
「ちっくしょう・・・うるせーな、あのクソゴムは」
怒りの感情が露わになってしまう。
当然だ、せっかく最高にいい雰囲気だったのに。
ここで黙っていてもすぐに見つかることも分かっている。

ナミさんは静かにおれの腕を解いて、俯く。
タイムリミットみてえなのは嫌いだけど、
アイツが来る前に言いたいことがあった。
「ナミさん、あのさ・・・」
「・・・う、うん」
「おれナミさんが大スキ」
ナミさんの気持ちが聞きたかった。
これで、気まずくなるのがいやだった。
振られるなら、それでも仕方ない。
おれの誠心誠意を見せた、
本気の告白だった。

「サンジ!!おやつ食わせろ〜〜」
「おれもだぞサンジ!」
「おれ様もだ〜〜!!」
邪魔者は時を追うごとに増加しているらしい。
おれは勿論応答せず、ナミさんを見ていた。

小さな声でやっと言ってくれた言葉は。
「私も、・・・・・・ちょっとだけスキよ」

え!?

「マジ!?ナミさ」
「いた!!!おいサンジ!!腹減ったぞ!」
みかんの木陰から、ついに悪魔がやってきた。
ナミさんは速攻でみかんのかごを持って、
その場を立ち去っていく。
転がったみかんを拾いながら。
いつもなら率先して手伝うものの、
おれの頭には血が上りすぎて今はそこまで気が回りそうにない。
「サンジ、おやつ」
笑顔で言うクソ船長様に、おれは問答無用で蹴りを入れた。
「てめえクソゴム!!オロス!!!!」

3人をオロしたところでおれはキッチンへ行き、
愛しのナミさんのためにみかんのタルトを作ることにした。
ルフィの奴らにはムカついたが、
それでも嬉しさは消えなかった。

今日は特別にみかんを多めに使おう。
熟して甘いヤツを選んで、
ナミさんにまた喜んでもらおう。
これから少しづつ変わるであろうおれとナミさんのこれからに、
エールを送るように、
飛び切り旨いのを作ろう。