その日はいつものように天気がよくて
皆もいつものように騒いでて
(約1名寝てて)
私もいつものように日誌を書いて
みかんの世話をして。
そう、全部、いつもと同じだと思ってたのに。


今日は違う日





少し前に降った雨とこの晴天のおかげで、
みかんは順調に育っている。色を見て、
きちんと熟したものだけを丁寧にはさみで切っていく。
「ナミさん、今日はいつもより熟してるみかん多いっすv」
いつものように、手伝ってくれるサンジ君。
嬉しそうにみかんを両手に抱えて、そっとかごの中に入れる。

木陰からもれてくる陽の光が、サンジ君を照らす。
金色に透き通った髪、眩しくてしかめたカオも、
・・・・・・・・・あぁ、やっぱり綺麗だなあ、
と、改めて思ってしまう。

私をスキだと言ってくれて、いつも優しいサンジ君。
私にだけじゃないってわかってるのに、
その優しさが、心地よくなってしまった。
完全に負けてる。スキになってしまった。

気付かれないように、
みかんを見るフリをして、
サンジ君に視線をやる。
これも、いつものこと。

あ、少し高いところに、
もう熟しきってるみかん発見。
でも、届くかな?
サンジ君は・・・・ダメ、今みかん運んでる最中。
届くよね。
うん大丈夫、
ちょっと背伸びして、腕伸ばして・・・

あ。こっち見てる、目、合っちゃう。
目、逸らさなきゃ。気付かれてしまう。

あ、あれっ??

「ナミさん!!」

サンジ君の、慌てた声。耳に飛び込んでくる。
私の視界は、ぐるぐる回って・・・

「・・・!」
「ナミさん、大丈夫??」
背伸びしながら、無理やり視線をずらそうとした私は、
バランスを失って倒れそうになって・・・
咄嗟に駆けつけたサンジ君に、支えられていた。

・・・・・・あ。
綺麗だわやっぱり。
心配そうなカオも、優しいココロも。
こうゆうとこが、スキなんだ。

「・・・・・・ナミさん?」
無意識にシャツを掴んだままだった私の右手を、
不思議そうに見る。
このままでいたいなんておかしいわね。
いつもならすぐに離れるのにね。
だってさ。スキなんだもの。

あ、あ、あ・・・・・・あ。

さっきまでより、いっぱい、
サンジ君の体温を感じる。
鼓動の音まで、聞こえるような・・・それとも、
これは私?

私を抱きしめる腕。少しだけ、震えてる。

「サン、ジく・・・」
「ナミさん、スキ。すげぇ、スキ」
だめ。
そんなこと耳元で言われたら、どうにかなっちゃうじゃない。
私のココロ、ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃない。
「サンジ君」
もう一回呼んでみたけど、
声が震えて、動揺してるのがバレバレだったと思う。
腕に包まれたままの、静かな時間。
サンジ君の暖かさに包まれたままの。

でも、それはすごく長く感じたのに、ほんとはすごく短い時間だった。
「サンジどこだぁ———!!!」
お腹を空かせたルフィの声が、船いっぱいに広がる。
もうおやつの時間だ。
アイツ、こんなときに。
「ちっくしょう・・・うるせーな、あのクソゴムは」
サンジ君は腹立たしげに呟いた。
そんな広い船じゃない、ここにいてもすぐ見つかってしまう。

私はサンジ君の腕を離して、少し距離を置いた。
まだ頬が熱い。こんなカオ、見られるのは恥ずかしい。
「ナミさん、あのさ・・・」
「・・・う、うん」
何、私なんでこんなに照れてるの。
サンジ君相手に、こんなに緊張したことなんてないのに。
「おれナミさんが大スキ」
いつもの、ヘラヘラした顔じゃなくて、真剣なカオ。
まっすぐな目に見られて、心臓の心拍数が跳ね上がる。
どう答えろって言うのよ。
あんたみたいに、私、はっきりそんなこと言えないのよ。

「サンジ!!おやつ食わせろ〜〜」
「おれもだぞサンジ!」
「おれ様もだ〜〜!!」
ルフィだけじゃなくて、船医と砲撃手も加わったらしい。
声が段々近くなってくる。
サンジ君は、呼びかけには応じずに、ただ私を見ている。

分かったわよ。
頑張ってみるわ。

「私も、・・・・・・ちょっとだけスキよ」

「マジ!?ナミさ」
「いた!!!おいサンジ!!腹減ったぞ!」
ギリギリのタイミングで、ルフィ達が駆け込んできた。
私は紅くなった顔を見られたくなくて、
みかんのかごを掴んでその場から離れたんだけど。
「てめえクソゴム!!!オロス!!!!」
サンジ君の怒りに満ちた声と、
ルフィ達の悲鳴が背中に響いてきたけど、
この高鳴りはどうにも止まりそうになかった。

もうあのみかんの世話を、
今までと同じキモチでは出来ない。
もうサンジ君と、
今までみたいなキモチで接せない。
全てが、今までとは変わってしまうんだと思う。

だけど、
こんな幸せなキモチになるなら、
それでも、いいかな。