「アンタ達もいい恋をするのよ。
恋して、たった一人の大切な人のために、
たった一人の大切な自分になりなさい」

昔言われた言葉。
ノジコは、何を言ってるか分からないわって、
嘆いてたね。
私だって意味なんか、全然わからなかったわ。
少なくとも、今までは。


初恋







日の光をいっぱいに浴びて、
きらきらオレンジ色を輝かせるみかん。
まだ、熟してはいないけれど。
熟したら、きっとおいしいみかんになる。

「いいなァ、みかんは」
みかん畑ではタバコは控えて、
きちんと世話をしてくれる彼。
最初からみかんの護衛を買って出てくれて、
そうでなくてもすることは沢山あるのに。
笑顔で、ナミさんの大切なものですから。って。

「何が?」
「だってサ、みかんはナミさんの愛を毎日受けて育ってるから」
いつも、こんな言葉を投げかけてくる、彼。
そりゃあ、悪い気はしないわ。
でもね。
冗談だと分かっていても、
調子に乗っちゃってる私のキモチ、
どうしてくれるの??

「はいはい」
「流してンね、ナミさん。あ〜ァ、おれ、
本気でナミさんの愛がほしーのにナ」
優しい笑顔で、甘ったるい声で、
こんなこと毎日言われたら。
そんなの・・・その気に、なっちゃうじゃない。

昼食の後のみかん畑、おやつの時間までがタイムリミット。
ルフィ達に大声で呼ばれるまでは、
みかんの香りに包まれた二人きりの時間。
この人が仲間になってから、ほぼ毎日の日課。
最初は軽くて、何だかよく分からない人だなって思ってたけど。
話してみると楽しくて、
意外と頼りにもなるし、
すごく気を使ってくれるし。
見た目もオシャレだし、中々男前なのよね。
眉毛は、ちょっとどうなってるの?って、思ったけど。
それはそれで、別に今は気にならないし。
サラサラの金髪なんて特に、
光を浴びるととてもキレイ。

「すき」とか、「あなたのために」とか。
嘘くさいわ、だって毎日言ってるじゃない。
毎日いつでもどこでも、誰がいても。
そういうのは、もっとロマンチックなところで、
二人きりのときに言うセリフでしょう?
そうに、決まってるのに。
何でこんなにこの人の言葉で、心が揺れるのよ。

「サンジ君はいつも調子良いわね。
私じゃなくても、そうやって口説くんでしょ」
本気じゃなくても良いわ。
傍にいて楽しい人、それでいいと思う。
なのに。
「ナミさん、おれはナミさんだけ。
いつも言ってるのに、まだ信じてくれないかな」
なんてカオ、するのよ。
そんな悲しそうに言われたら、
ココロがどき、ってするじゃない。
ほんとなのかな。
私だけなのかな。
私を、すきなのかな。
って。
思うじゃない。

「分かった、分かった。
ね、サンジ君。明後日くらいにはみかんも食べられるわ。
そうしたらとびきりおいしいデザートを作ってね」
私はまだ、キモチを隠す術しか知らないわ。
好きになるなんて、
誰かを愛しく思うなんて、
経験がないもの。
まさかこんなに、
この人のことを考えてしまうなんて。
この人の傍にいたいと思ってしまうなんて。

恋、しちゃったわ、ベルメールさん。

「仰せのままに、ナミさん」

優しくて、金色の髪の王子様。
あなたの気持ちは本気かどうか、惑わされるけど。
いつか私のキモチを、
上手に伝えられますように。