島に立ち寄ると、おれは大抵一人で行動する。
気に入った酒があればそれを買うし、
特に用がなければ街をただブラブラしたり、
船の甲板で睡眠をとったり。

ふと街を歩いていたとき、
ナミがクソコックを歩いているのを見かけた。
毎日船で見かけてるって言うのに、
街中で見るアイツらはどことなく雰囲気が違った。
話し掛ける気にはなれず、
ただ視界に入る範囲でのみ見ている中で、
楽しそうに笑いながら手を引いて、
歩いている姿が映った。

あの女は。
気付いたらナミと出かけていたり、
1人で船を降りてさっさと歩いていくことが多い。
誘われたこともないし、
勿論誘ったこともない。
ナミと出かけていくときは、
クソコックは軽やかに足を進めて、
「んナミさ〜ん、ロビンちゃ〜ん、お供しまっす!!!」
なんていいやがる。
とてもじゃないが、おれには出来ない。


なあ。たまには。
おれと歩いてみるのもいいんじゃないか。
そう、思ったんだ。


「いい天気ね」
「ああ」
何とか船を降りて歩いていくお前を追って、
声をかけることが出来た。
適当に歩いて、適当に洋服を見て。
おれには洋服のセンスなんかねェから、
ただ突っ立って見ているのはつまらなかった。
クソコックは、
「ナミさんホント何着ても似合うなあv」
なんて調子のいいこといつも言ってやがるが、
そんなアイツがたまらなく器用に思えてきたぜ。

そんな中で、
視線を外にやったとき、
おれの目に小さなワゴンが飛び込んできた。
「おい」
「何?」
「少し・・・外に行ってくる。この店の前で待ってろ」
どうかしたの、というお前の言葉を背に、
おれは少し早足で店を飛び出した。

ワゴンは道を走って、
洋服を見ていた店からは少し離れたところで止まった。
おれは思わず走って追いかけたものの、
ワゴンが止まってドアが開き、
小さな店舗がその場で始まった途端、
どうすればいいのか分からなくなった。
息を切らしながら見ていると、
店主の男と目が合った。
「おう、兄ちゃん。買っていくかい」
そう言ってもらえると、正直助かる。
「あ・・・ああ」
「毎度あり。どれがいい?」
ワゴンの正面まで歩くと、
思った以上の種類があり、驚いた。
こんなものは、買ったことがない。
ただ、
ナミとクソコックが食べているのを見て、
街で注意してみればそういう奴らは、
多いじゃねェか。
おれは笑顔なんか見せる余裕はなかったから、
思い切り無愛想な顔で店主に薦められた味を買った。


走って戻ると、店の前のベンチに座り、
街並を見ている、お前の姿。
晴天の下、
その姿に目を奪われて、
足が止まった。
肩にかかった黒くしなやかな髪は少しの風で揺れて、
頬を掠めている。
頬杖をついて少し物憂げな表情。
お前は。
こんなに・・・・・・
おれの心を響かせることができるのか。


手に持っていた、
冷たいソフトクリームは、
日の光に照らされて溶けていく。
右手のそれが先に溶けて手を伝ってきて、
やっとおれは我に返った。


「おかえりなさい」
おれを見て、ふっと笑って言う。
それからおれの手を見て、
目を少し大きく開いた。
「溶けた・・・少し」
左手に持っていた、
店主が言うにはアメリカンチェリー味のソフトクリーム。
まだ、右手の方ほど溶けてはいないから。
そっちを半ば強引に手渡した。
改めて考えると、
自分の行動がものすごく恥ずかしいのでは、と思えてくる。
それを見透かしたかのように、
「これ、買うために走ったの?」
そう言って。
笑っているんだろうと分かっていたから、
お前の顔は見れなかった。
思い切り視線を逸らして、
その質問は完全に無視する。
右手にある真っ白なバニラのソフトクリームは、
どんどん溶けていく。
それに、口をつける気にはならなくて。


ただ、ただ・・・
少し、
うらやましかったんだ。
そういうのが、
少しだけ。
言えねェ、そんなことは、とてもじゃないが。


「意外。美味しいけど」
ちら、とそっちを見ると、
微笑みながら、桃色のソフトクリームに口をつけている、お前。
おれは自分のべたべたになった右手を見て、
我ながら苦笑する。
まだ残っているそれに口をつけると、
照れのせいかこの気候のせいか、
温度が上昇したおれにはひんやり冷たく旨く感じた。
少し、甘いが。


どうもこんな状況は似合わねェが、
お前のそんな表情が見れるのなら、
無理をするのも悪くないと思ってしまう。
おれの行動でも、
ソフトクリームの味でも。
お前の笑っている顔とか、
穏やかな表情が見られるのなら、
慣れないことをするのも手がバニラ味になるのも、
すべて悪くないと思う。


「ご馳走さま。手・・・汚れちゃったわね」
そう言って、ベンチから立ち上がると、
おれの右手を引いた。
「おい、手・・・」
「別に、洗えばいいでしょう。構わないわ」
ためらうことなく、手を掴む。
そうしておれが立ち上がってからも、つないだままで、
歩き出した。
少し距離がある、おれとお前の間。
それでも、
今どんな表情をしているか、
おれには、分かる。


きっと、
同じ。