ほら、男って鈍感な生き物だろ。
だからサ、言葉が欲しいんだ。

ってな、わけで。

ナミさんに、「好き」と言わせる作戦、



実行開始




秋晴れの心地良い、一日。

午後3時にデザートとハーブティーを手に、
読書中のナミさんの元へ。

「今日もありがと、サンジ君」
笑顔で言うナミさん、今日の機嫌は良さそうだ。
おれは隣に腰をおろして、自分のティーカップに口をつける。
「ん、おいし」
「お気に召した?」
「うん」
天気もいいし、波も穏やか。
そこにおれの愛のこもったデザートとくれば、
さすがにナミさんも幸せを感じてくれてるんじゃないか?

少なくともおれは、
君の笑顔一つで生きてて良かったとすら思えてしまうんだ。

—なんて、
見惚れている場合じゃない。
今日は、(おれにとって)大事な、作戦が。

「ね、ナミさん」
「なーに?」
いたって、明るく、自然に。
「おれのこと、好き?」

食べる手を止めることもなく、
ナミさんもまた自然に。
「別に、普通」

———失敗。

普通って・・・ナミさん。
おれたち、両想いだった気が、するんだけど、なァ・・・。

「ご馳走様、サンジ君。片付け、よろしくね」
打ちひしがれているおれにそう言い放つと、
話し掛けるなと言わんばかりのオーラを纏い、
ナミさんはまた本に目を落とす。


大丈夫、一日は長い。
状況が良くなかった。
ムードを大切にしないと、な。
おれとしたことが。


夜、今日の見張りはナミさん。
ナミさんが見張りのときは、
おれも傍にいるってのがここ最近の習慣だ。
昼間は心地良い風も、夜になれば肌寒い。
暖かいミルクティーを持って、
いざ。

キッチンから一歩出ると、空には満天の星。

見張り台に上って、
「熱いから、気をつけて」
これも、いつもの台詞。

「今夜は冷え込みそうね。でも、明日も快晴は続きそう」
空を見上げながら言うナミさんは、
星の光に包まれていて、本当に・・・綺麗だな、と思う。

ミルクティーを一口含んだ後の唇は少し潤いを見せて、
ついつい、それを見て感情が高ぶった。
右手でナミさんの顎を持ち上げて、
軽くキスをする。
ほんのり、甘い香り。
きゅ、と抱きしめて、もう一度、今度は首筋に。

「・・・バカサンジ。」
そう言いながら、腕を背中に回してくれる。
そんな君が、すごく、愛しい。
ナミさんは?
君の気持ちは?

「ナミさん」
「ん?」
「おれのこと、好き?」
「また、言ってる」
呆れられても。
「好き?」
「どうかしら」
「好きって言ってよ、ナミさん」
「何でよ」
「聞きたいから。」

うずめた顔を上げて、おれを見上げて、
ナミさんはくすっと笑って頬に手を当てる。
「何、その顔」

「私、そんなに不安にさせてる?」

————、そんな情けねェ顔、してたか。

「いや、そうじゃない」
「バカね、ホント」
髪の毛に指をすべらせて、笑う。
「心配しなくて、いいのよ」
「・・・って、コトは?」
「そんなに言わせたいの?」
頷く代わりに、またキスをする。
「ったく・・・」

ナミさんの腕がすうっと伸びて、
頭を抱きしめる。
ぽんぽん、と右手を優しく当てて、
「好きよ、バカサンジ。」

バカ、
は、いらねェけど。

その声が思ったより優しくて。
表わしきれない感情がこみあげてきて、
それに返す言葉が見つからず、
強くナミさんを抱きしめた。

別に不安を感じていたわけではないけれど、
安心できる。
普段は決して言ってくれないことだから、
響く。
けれど欲しいときに、
呆れながらも
それでも優しく。
言ってくれるから、また君が愛しくなる。
そんな、
君の言葉。


それがおれを支えてる。
それが、欲しかった。



————成功。