角川スニーカー文庫 『みんなの賞金稼ぎ VIVA POTHUNTERS』 池端 亮 カバーイラスト・本文イラスト/白亜右月 カバーデザイン・口絵デザイン/岩郷重力+WONDER WORKZ. この日本という国の戦前と戦後[1]を考えるとき、もっとも突起すべき変化は、急速な復興に比例した景気の上昇や、一部の狂的な国主義者たちが言うような五十年来の敗北の汚辱からの復権や、好景気の副産物とでも言うべき外国人の流入や、それにともなう治安の悪化や、目に余る犯罪の横行ではなく[2]、賞金稼ぎという首輪の外れた狩猟件たちが現れたことだ。 彼らは、彼らの獲物であるところの犯罪者たちよりも、なお質が悪い。なぜなら、彼らは警官でも悪党でもなく、賞金稼ぎだからだ。 —エミール・ピエリ[3] 註1 十年何年か前に、朝鮮半島で始まった戦争のこと。あっという間に、中国とか東南アジアと か中東とかに飛び火して、日本でも、もー勘弁してってくらい、人が死んだらしい。けどまあ 核兵器とか使われ なかっただけ、ましだったじゃん。 — 鬼瓦カヲル 註2 難民や移入者の増加と世相の変化を安直に結びつけるこういう表現は、軽率だと思う。たと え、それが事実だとしても。 — 藤巻ヒカリ 註3 て言うか、この人、誰?フランス人の学者?知りませんって。 — 東雲アオイ 一月六日(木) 朝から雪 寒い。起きてからずっと布団の中にいる。あー、だるい。ご飯を作るのも面倒で、朝から何も食べてない。昼頃、隣からアオイが来て、切り餅をやたらたくさん置いてった。商店街の福引で当たったのだと言う。せっかくだから、焼いて食べた。 一月七日(金) 晴天 今日は疲れた。パルコが今日から新年のセールを始めるから、率先して回ってきた。アオイとヒカリ連れてったけど、人が超いっぱいいた。みんな正月早々元気だよなー。三日からの丸井のセールはもっと大変だったにちがいない。行かなくてよかった。ユージ・ヤマダのコートとマルジェラのニット、ヴィヴィアンの透け透けのカットソー、あと思い切ってセルジオ・ロッシの靴を買った。めちゃめちゃ重かった。春物も欲しい。 一月八日(土) 快晴 今日もいい天気。面倒くさがるアオイとヒカリを強引に誘い、また買い物。アローズでフセイン・チャラヤンのワンピースとナルシソ・ロドリゲスのツイードのパンツを購入。アオイはマルク・ル・ビアンの黒いシャツを買った。背が高いからよく似合う。むかつく。ヒカリはララ・ボーイングの新しいピアスを買ってた。可愛い。 一月九日(日) 曇天 昨日、深夜までずっとシンカワの新譜を聴いてた。やっぱイイ。プレイヤー持ってないのにアナログ盤も買ってしまった。朝、隣のアオイが、あの呪文みたいな音楽はやめてくれと言ってきた。分かってない。明日はオービタルを大音量でかけてやる。 一月十日(月) 普通の晴れ、でも午後から曇り 今日から、とうとう学校である。久しぶりにカナやヨーコの顔を見た。カナはお台場で彼氏と初日の出を見たらしい。帰りは渋滞で大変だったそうだ。阿呆である。全然うらやましくない。 一月十一日(火) 雨 授業の後、雨を押して買い物。嫌がるアオイは何とか連れ出せたが、ヒカリは図書館に行ってしまった。つれない奴だ。代官山のジャン・コロナで袖なしのニットを、ヴィア・バス・ストップでヴェロニク・ブランキーノの上着を、ボンジュールレコードで知らない人のCDを三枚買った。なんだかんんだ言って、アオイもAPCで鞄を、グレースとコキュでマフラーとワンピを買っていた。ついでに、ラフ・ダイヤモンドでアクセを、オクラで蝋燭とお香を購入。あと、キルフェンボンのブルーベリーのタルト。甘い! 一月十二日(水) 最初は雨、後から雪 冬休みの課題を提出。ほとんどヒカリの丸写し。感謝。 追記—帰りにアルマーニで買い物。狙ってた指輪を手に入れ、意気揚揚と帰宅する途中、白い車に水溜りの泥水をぶっかけられた。ナンバーばっちり記憶した。今度見つけたら、絶対ぶっ殺す! 一月十三日(木) 晴天 髪が伸びたのでヘアサロンに行く。根もとが黒くなってきたから、また染め直してもらおうとしたら、梅野さん(お馴染みの美容資産)がそろそろ色を変えてみたらと言うので、好きにしてもらった。今度は金髪!金色にも色々あって、あたしの場合は薄いベージュのカラーを入れる前に、一旦、真っ白に脱色したのだが、すごく時間がかかった上に、金もたくさん取られた。でも、完成してみると悪くない。顔が小さいからよく似合っている。満足。 一月十四日(金) 普通の晴れ 銀行の残高を見て、気絶しそうになった。いつの間にか、お金がなくなってる。調子に乗って遣いすぎた。本気でやばい。 一月十五日(土) 晴天 お金がなくなると、いきなりすることがなくなった。暇だ。食費を浮かせるために、お餅ばかり食べている。(発見。焼いたお餅にチョコレートを塗ると美味しい。ピーナッツバターは失敗)。とにかく暇。何かしよう。このままじゃ月末の光熱費も払えない。 一月十六日(日) 曇天 一日中ごろごろしてた。テレビもつまらない。虚しい。暇すぎて死ぬかもしれない。アオイに文句を言うと、自業自得ですよと一蹴された。・・・・・・バイトをしよう。 一月十七日(月) 普通の晴れ バイトの面接に行った。ヒカリの紹介だ。ヒカリは学校に黙って悪いアルバイトをしている。優等生のあいつがこんな外道な真似してると知ったら、先生たちはきっと卒倒してしまうに違いない。でも、やばい仕事だけに給料はいい。水商売よりましだ。と思う。 二月一日(火) 曇天、のち雨 採用決定。研修が終わって、今日からバイト開始。事務所で店長(冴えないオヤジだ)から鉄砲を渡された。今日からあたしは賞金稼ぎだ。 以上、鬼瓦カヲルの日記より抜粋
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